北朝鮮、「自力更生」路線に先祖返りで日朝関係・拉致問題は漂流の気配
● 5年ぶり労働大会と軍事パレード 見えた金正恩体制の今後 北朝鮮で1月12日まで開かれていた第8回朝鮮労働党大会で、最高指導者の金正恩氏が新しいポストの党総書記に就任した。 14日には平壌の金日成広場で軍事パレードも行われた。 党大会と軍事パレードから見えてきたものは、国際的な経済制裁や新型コロナウイルス感染、水害の「三重苦」のもとで独裁体制にも揺らぎが感じられる苦しい状況だ。 「自力更生」というかつての厳しい時代のスローガンが再び掲げられたのは、その象徴だ。 「拉致問題の解決」を最重要課題に掲げ、日朝関係改善をめざす日本政府は自力更生路線に戻る北朝鮮にどう対応していくのか。 ● 経済発展計画の失敗を認め 「自力更生、自給自足」掲げる 5年ぶりに開かれた労働党大会は北朝鮮の窮状をさらけ出す場になった。 金正恩氏は2016年から昨年までの国家経済発展5カ年戦略について「途方もなく未達だった」と、失敗に終わったことを認めた。
国際社会からの経済制裁や新型コロナウイルス感染による中国との国境封鎖で貿易量が落ち込み、外貨収入が激減、加えて水害被害の打撃が大きかった。 正恩氏は21年からの新たな5カ年計画について「基本テーマは、依然として自力更生、自給自足である」と語った。 「自力更生」は、初代の金日成総書記の統治の時代から数十年にわたって、外貨不足や飢餓などの際に市民に苦労を押しつけるときに使われてきた常套(じょうとう)文句だ。 脱北した元党幹部の一人は「自力更生や艱苦奮闘という言葉を聞くと、ああ、また生活が苦しくなるのか、とよく思ったものだ」と語る。 通常の党大会は幹部人事などを決めるだけですぐに閉幕するのに、今回、正恩氏は新5カ年計画について詳細に説明し、部門別会議も開くなど、計画達成に懸けている様子だ。 ただ、内容は、金属や電力、農業などの部門の整備発展という、金日成時代から変わらぬ古色蒼然(そうぜん)とした内容にすぎなかった。 北朝鮮では現在も、75年前に終わった日本統治時代の道路や鉄道などのインフラが主に使われ続けている。さらに20年は中国との国境封鎖や制裁などで生産自体も落ち込んだ。 韓国の情報機関、国家情報院は昨年11月の国会説明で、原材料不足や設備の老朽化のため、北朝鮮の産業の設備稼働率が2011年に正恩氏が最高指導者になって以降で最低水準にあると報告した。 目標達成を目指そうにも、資金などの「先立つもの」への言及はないままだった。 ● 制裁やコロナでの国境閉鎖 外資導入進まず「先祖返り」 苦境を乗り切るためには、まずは外国資本が投資できるよう環境にすることだが、そのためには経済制裁が緩和されるように、ミサイル発射の抑制や核開発関連の疑惑をまずは払拭する必要がある。 また投資家から信頼してもらうため、法律や金融市場の整備など、市場経済の基盤となるインフラや制度が必要不可欠だ。 だが、こうした問題に対する答えも示されなかった。 大会では、ミサイルや核兵器などの開発状況を詳しく公表、多弾道型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の研究が「最終段階」にあることを表明するなど、制裁緩和の状況を作るというよりはバイデン米新政権を威嚇、けん制する姿勢の方が目立った。