後続の猛追をしのぎ切ったルガル

［ＧⅠスプリンターズステークス＝２０２４年９月２９日（日曜）３歳上、中山競馬場・芝外１２００メートル］ 　２９日、中山競馬場で行われたＧⅠ・スプリンターズＳ（芝外１２００メートル）は、単オッズ９番人気の伏兵ルガル（牡４・杉山晴）が１分０７秒０（良）の好時計で勝利。鞍上の西村淳とともにＧⅠ初制覇を飾った。果たして５着までが０秒２差に収まる激戦のレベルはいかに？検証する。 「本当に覚えていなくて…」とレースを振り返ることすらできなかった勝利騎手の西村淳。この言葉からも、いかにレースが極限状態の電撃戦であったかがうかがえる。 　ピューロマジックが後続を大きく引き離す展開は２ハロン目が９秒９、そして３ハロン通過は３２秒１（過去１０年で最速）。まさに激流という言葉が相応しい流れだった。勝ち馬は２番手からも差のある３番手で運び、４角手前からじわりと差を詰めると残り１ハロンで失速したピューロマジックをかわして先頭へ。２着トウシンマカオら後続が次々と猛烈な末脚を繰り出して襲いかかる中をしのぎ切った。 　一般的に見れば３ハロンの前後半差が２秒８となる今回は完全な差し有利の展開。「自分の仕事はスタートを出すことだけと決め込んでいたので、スタートを五分に出た時に厩舎としての仕事は終わったなという感じ」と杉山晴調教師が伝えるように、この馬の場合はスタートが全てだった。鞍上も「キャンターに行く時の下ろし方を丁寧にしたり、常歩も馬の後ろにつけて我慢させるようにしていました。一つひとつ丁寧に、ということですね」とアプローチを工夫したとするが、それ以上に同馬における発馬の重要性を読み解くカギとなるのは重賞初制覇となった２走前のシルクロードＳだろう。 　５７・５キロのハンデを背負いながらも好発から２番手につけ残り３００メートル付近で先頭へ。この時も２、３ハロン目が１０秒台の激流だったが、後続に３馬身差の快勝。これまで馬柱に出遅れがつくレースはことごとく敗れていて、〝スタートさえ決まれば〟素質は超一線級だったと見ていいはずだ。 　休養を挟んだ同馬について「春先はかなり馬体がピークを迎えつつある感じだったので肉体面に関しては大きな変化はなかったです。それよりも競馬を一時期離れることで、気持ちの面で大きくリフレッシュされたなと帰厩後の調教を進める中で感じることができました」と杉山晴師はスタートが決まった根底にある精神面の良化を強調する。 　激流の中でも一頭だけ前に行った組で残り、勝ち切ったルガル。国内外の強豪を下しＧⅠタイトルを手中にした今回、それは世界と張り合える素質が花開いた瞬間と言えるはずだ。