なぜウクライナはロシアの核戦力を叩きにいったのか…小泉悠分析「プーチンはエスカレーションしないとウクライナは思っているのでは」
高まらないロシアの厭戦ムード
ウクライナ戦争を開始してからというもの、ロシアは軍需産業の生産を拡大させてきました。さらに予備として置いていた兵器を片っ端から引っ張り出し、国中から囚人やお金のない人たちを集めて兵士として前線に送り出した。すさまじい勢いで、戦争遂行能力を高めていったのです。 ロシア軍の死者はわかっているだけで6万人以上、おそらく13万人近くにまでのぼると言われていますが、ロシアでは一向に厭戦ムードが高まる気配がありません。最近もモスクワに住む人たちと話しましたが、「プーチンに任せておけば大丈夫」と、反省の色も危機感もまったく見られませんでした。 厭戦ムードが高まらない要因としては、前線に送られた兵士の層と、好調なロシア経済が大きな要因であると考えられます。いまロシアでそれなりの暮らしを送っている人の多くに、「戦争に行って死んでいるのは貧乏人。自分たちが戦争に行くわけじゃない」という感覚が拭いがたくあります。この辺はもともと非常に格差の激しい国ならではものと言えるでしょう。 経済面では、2023年の実質GDP(国内総生産)は3.6%と、高い経済成長を実現しています。国防費の増額によって軍事主導の経済成長が起きているのです。財政赤字と引き換えの経済成長ではありますが、財務省が発表した2024年度の財政赤字は補正前で2兆1200億ルーブル程度と、GDP比にして1.1%程度にすぎません。 財務省は、今年は緊急準備基金を取り崩し、2025年以降は国債を発行して国防費の増額に対応すると表明しています。つまりロシアは、いまのペースを向こう数年程度は維持できる体制を構築できると考えねばなりません。
小泉悠