学生時代は“野球漬け” 30歳・人気俳優が“声”だけで表現する新境地で魅了「ごまかしはきかない」
野球漬けから俳優へ「人は変われる」
一方で、モデルや俳優を経験するうちに「人は変われる」と実感するようになったという。 「今作の島本さんのセリフに『一度カチカチに固まってしまったものは、もう変わらないのよ』というニュアンスのものがありました。昔の僕ならうなずいていたと思いますが、多くの人や作品に出会ってきて、皆さんの生きざまを見ていると今は『変われるからこそ成長できるし、俳優を続けられる』と考えるようになりました」 宮沢自身も、芸能界に入り人生が変わった。高校時代までは、本気で野球に打ち込んでいた。 「クラブチームと学校の野球部を掛け持ちして、土日もずっと野球の練習で埋まっていました。遊園地で遊んだりデートする経験もなかったですね。そんな日々から留学して海外の大学に進んだとき、何となく興味があったドラマや映画の世界が将来の道に浮かんできました。挑戦しないと、一生後悔するだろうなと思って進路を決めました」 2015年に男性ファッション誌『MEN’S NON-NO』の専属モデルで芸能界デビュー。それから表舞台に立ち続け、Audibleでも新しい感覚を得た。 「もっと言葉を大切にしたいですね。映像や舞台にあるその場の空気感に頼らないで、自分が今話している言葉とそこに込められたものを理解して、お届けしていきたい。今の時代、ついつい視覚的な情報に頼ってしまいますが、テレビも映画もない時代があったわけですし、話芸ってシンプルな娯楽だと思います。情報をシャットダウンして、耳から入ってくる言葉で想像をふくらませて欲しいです。そのための芝居は自分にとってもこれから絶対役に立ちます」 今後の俳優としての抱負を聞くと「今、具体的にこうありたいというより、やりきったと思えるところまでいってみたいです」と答え、ストイックな人生の理想を明かした。 「もし俳優をやっていなかったとしても、人生で何か一つの物事について『これ以上ないほどやりきった』という体験を味わいたいですね。同時に、その境地に行きつくことは絶対ないだろうなと思う自分もいます。この不可能な目標を追い続ける覚悟がないと、人として大きな成長はできないと思っています。常に何かに飢えた状態で突き進んでいった方が、得るものも喜びも大きいです」 自ら選んだ道に、到達点はない。終わりなき芸を追求し続ける。 □宮沢氷魚(みやざわ・ひお)1994年4月24日生まれ、米国・カリフォルニア州サンフランシスコ出身。ドラマ『コウノドリ』第2シリーズ(2017年)で俳優デビュー。以後、ドラマ『偽装不倫』(19年)、NHK連続テレビ小説『エール』(20年)、映画『騙し絵の牙』(21年)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。舞台『ピサロ』(22年)他、話題作に出演。初主演映画『his』(20年)では、数々の映画賞受賞。22年NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』にレギュラー出演。23年映画『エゴイスト』にて、アジア全域版アカデミー賞「第16回アジア・フィルム・アワード」(AFA)、毎日映画コンクールでは“助演男優賞”、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞を受賞した。24年1月期TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』、映画『52ヘルツのクジラたち』に出演。今後は25年放送予定NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も決定している。
大宮高史