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安倍首相の後任が工夫すべきこと。(評論家・歴史家 八幡和郎)

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安倍首相の自民党総裁としての後任に手を上げている 3人の総裁候補を見比べて、いかにも安倍総理と比べて「見劣りする」、「格が違う」と言う印象を持った。これは、失礼ながら私だけでなく、国民のほとんどがそういう印象をもっていると思う。 もちろん小渕総理のように、ほとんど期待もされなかったけれども、就任してから評判が良くなった人もいる。ビートたけしは、それを「海の家のラーメン」にたとえて、期待してなかったのになかなかいけることがあるというような褒め方をしていた。私も諦めずに、そういうふうに期待したい。 しかし、おそらくは、後継者は安倍首相と比較され苦しむことになるだろう。私にとっては安倍首相と違ってあまり評価する首相ではなかったが、小泉純一郎首相についても、国民はあのカリスマ性になつかしみ、安倍、福田、麻生の3人は人気が出ないままに民主党政権に移行した。 私はここ何年か野党の人にも、安倍首相がやめたら必ず「安倍ロス現象」が起こって後継首相は人気が出ないだろう、だから安倍首相を無理に攻撃するより攻撃はほどほどにしておいて、後継首相を安倍首相に比べて劣ると攻撃したほうが絶対賢いと言ってきたくらいだ。石破氏にしても是々非々で居れば良いものを、安倍首相に対する嫌味ばかり言ってきたので展望が開けない。 ポスト安倍を論じるには、歴代総理のなかで再登板して第二次内閣を組織して以降の安倍政権がどんな意味で希有な価値があったかが前提となるべきだ。 第一に、世界外交で日本の首相がメインプレーヤーして広く認められたのは、安倍首相が初めてといってよい。これまでの首相では、大平首相は評判はよかったが、力を発揮する前に死去し、中曽根康弘元首相がもっとも目立ったが、レーガンと欧州首脳の橋渡し役という脇役だったと思う。 それに対して、安倍首相は、ボルトン元米大統領補佐官が、「トランプを現実と重い鎖でつなぎとめていた」と言っていたが、サミットでも空中分解しなかったのは安倍首相の踏ん張りのおかげだとすら言われた。 また、オバマ大統領も社交的ではなかったので、各国首脳で良い関係だった人はほとんどいないのだが、安倍首相はまずますの関係をたもち、広島と真珠湾の壮語訪問も実現したし、TPP交渉をまとめた。(このあたりは、新刊「アメリカ大統領史100の真実と嘘」(扶桑社新書)で詳しく書いたが、安倍首相がオバマとトランプと両方とうまく付き合ったのは奇跡的だった。いつもそんなにうまくはいかないのだ。 第二に、六回の国政選挙で奇跡的に大勝した。経済も長期に渡って好況が続き、とくに学生の就職状況の好転に見られるように、世代間格差の縮小に向かってそれなりの成果を上げたのだからいちおう合格だろう。モリカケなど「不祥事」も些事ばかりで、野党の追及もその中身でなく資料を隠したとかいうことに留まる。 コロナ対策は、「日本人がコロナ戦争の勝者となる条件 」(ワニブックス)で詳しく論じたが、不確定要素が多いなかで、過去の医療行政の貧困を引きずりつつも、経済とのバランスでも極端に走らずに落ち着いた対応で上々の結果を出していると評価すべきだと思う。 第三に、再登板以来8年間は日本では最長だが、米国では2期8年が標準だし、ヨーロッパでもイギリスのサッチャーとブレア、フランスのドゴール、ミッテラン、シラク、ドイツのアデナウアー、コール、メルケルなど10年以上、中国も10年が標準だ。 ただ、憲法改正発議の目処は立たず、経済・社会の根本改革も、方向は示されたが、憲法改正を優先してか大胆さに欠けた印象はある。そこに踏み込む道筋を示してこそ、安倍ロス現象を克服できるのだが、候補者たちが覇気に欠けがちなのが残念だ。 これまで世論調査で支持率が高かった石破茂氏だが、安倍首相に対する評価や与党支持率が低調なら、田中角栄氏のあとを反主流派の三木武夫氏が継いだ椎名裁定の再現もありうる。ところが、退陣表明によって「安倍さんごめんなさい」といわんばかりになって、不支持からの転向が相次ぎ、内閣支持率は60%を超えたり、自民党の支持率が立憲民主党の10倍を超えると言った状況だ。党内野党に徹し、選挙のときすら味方を背後から攻撃し続けた石破氏が後継者では、与党支持層の大半はしらけてしまう。 石破氏のもうひとつの懸念は、外交軽視である。石破氏は国際経験に乏しいから、外遊して海外の要人と会ったり、彼らが集まるスイスのダボス会議などで、英語でスピーチなどすべきだった。 だいいち、あの回りくどい話しぶりでは、トランプ大統領には文在寅・韓国大統領と同じように嫌われ国益を護れないだろう。最近の月刊「正論」のインタビューで「米国を取るか中国を取るか単純な二者択一は許されない」とか、普天間基地移転問題で代替案も俎上に載せろと言っているが、これでは第二の鳩山由紀夫氏だ。 中国の民主化を厳しく主張しつつ、習近平国賓招請に賛成というなど、多分に「口だけ番長」チックだし、民主化の必要はないと誤ったメッセージを避ける慎重さに欠ける。 地方振興が看板らしいが、個別の地域が隙間狙いで田舎らしさを生かせば成功するという都会人の愛玩物としての方向であって「里山資本主義」では、いくつかの成功例は作れても地方衰退という流れの挽回にならない。そしてこれが、地方創生相として期待に応えられなかった。 師である竹下登を代表とする地方政治家的な発想ではその場しのぎのカンフル剤にしかならない。地方での選挙応援に熱心だから見返りとして票集めに協力する人はそれなりに多いが彼らとて評価などしていない。「私の選挙の応援にまできてくれましたからやはり応援しなければ」という恩返し発想で天下国家のためにとはいわない。また、杉村太蔵氏からマクロ経済政策についての知識不足を批判されて話題になった。 憲法第九条については、現行憲法の解釈でも改正問題でも、安倍首相よりはるかにタカ派的だ。現行の憲法でも、米軍が攻撃されたら集団的自衛権の行使で地球の裏側まで派兵できるとまでおっしゃる。現実性に欠ける一方、野党や自称リベラル系マスコミは反安倍のために好意的に振る舞っているが、こんなひとを首相になったら容赦しないだろう。 岸田文雄・自民党政調会長は、安倍首相意中の後継候補といわれてきた。なにより激務である外相を5年間も勤めて安倍外交を支えてきた。舛添要一も「岸田の洗練された感じは、世界各国と外交を行うのには最適であったろう。」と書いてるが、河野太郎のように粗野に論破するのは外交では絶対にやってはならないことで国内向けのパフォーマンスだ。トランプ相手でも大丈夫だと思う。 憲法改正では、国会の票読みより国民投票が焦点になるが、保守派の首相のもとで対決ムードで臨むより、リベラル色が感じられる岸田氏のほうが確実に勝てそうだ。 ところが、岸田氏への国民の支持は上がらない。安倍政治を「分かりやすい説明」「スピード感」が不足だと岸田氏は注文つけるが、岸田氏がこの点で安倍総理より優れているとはとうてい思えない。たとえば、河井克行・案里夫妻の事件の発端は自民党が2議席取れるのに、野党と1議席ずつでいいと岸田派が暗躍したことだ。自派の参議院議員を守るために2人擁立を阻止すべきだったとかいう人もいるが、地元で過去2回の選挙で1人で野党候補の倍とっているのに1人しか立てない人に総裁候補の資格はない。 そういうことではいけないし、悪い結果には責任を取るべきだし、スピード感を増すためには現在以上に官邸主導にしなければならないがその気があるのか。 「情熱が足りないのではなく、まず、人の意見を聞くというスタイルなだけだ」と月刊「正論」のインタビューでいっている。しかし、首相になったらこういう改革を断行すると言う目玉をもって訴えないと国民の期待など上がらない。 安倍政権を豊臣秀吉の天下にたとえれば、五奉行筆頭である石田三成にあたるのが菅義偉官房長官である。岸田や石破は五大老ないしその経験者だ。それに対して、実務能力が高く、自民党幹部で数少ない庶民出身である。そして、秋田出身で横浜市議経験ありというのも大都市と地方が分かるという意味でバランスが良い。 ただ、官房長官からの横滑りは本当はよくない。第一に、モリカケ問題をそのまま引きずる。第二に霞ヶ関の人事権を8年間も握ってきて息苦しい雰囲気があるのに、そもまま続けるのかということがある。官僚の専門性尊重と政治の意向反映との両立には、人事権者が適度に交代してはじめて調和するのだ。第三は対外交渉の経験不足だ。経済産業相などで対外交渉を実地に経験すべきだ。官房長官として見ていたというのでは不十分だ。 以上のような問題を踏まえて、政権交代は来年という前提で、私は秋の内閣改造で菅官房長官は、重要経済閣僚に転じるべきだといってきた。しかし、いまさら仕方ないので、以上のような問題があるということを菅氏自身が肝に銘じて対策を講じて欲しいと思う。 もちろん、菅氏には携帯電話の値下げとか、ふるさと納税とかいった気の利いた政策を発案し、豪腕で実現する能力はあるしそれに期待したいが、上記の3点の問題のかわりにはならないのでよほど工夫が必要だ。

八幡 和郎

評論家、歴史家、徳島文理大学教授 滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。

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