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斎藤佑樹がスマホに永久保存。 大石達也とのラスト・キャッチボール

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「大石は感覚派なんです。プロに入ってからは年に2、3度、食事に行くんですけど、そういうとき、『投球フォーム、見せてよ』って言うじゃないですか。それは今、ここで投げてくれって意味じゃなくて(笑)、スマホに入ってるでしょ、自分のピッチングフォームが......でも大石はそういう動画を一個も持っていない。やっと見つけたと思ったら、軽ーいキャッチボールとかで、これじゃ、全然、わかんないよって。大石は『オレは感覚でやっている人間だから、それでいいんだ』って言っていました。そういう考え方ができるのって、羨ましいんです。大石みたいにシンプルに考えられれば頭の中がクリアになるのに、僕はいつも頭の中が忙しくて、頭のキャパがいっぱいになっているタイプですからね」  感覚に頼ってきた大石は、プロの世界でフォームを狂わせたとき、ロジックに頼ることができなかった。テイクバックのとき、あるはずのない位置に腕がある。ここじゃないと元に戻そうとしても、簡単に戻るものではない。あれこれ試行錯誤を続けているうちに、大学時代に投げていたフォームがわからなくなってしまった。  逆に理詰めで物事を考える斎藤は、プロ入り後もいろんな考え方に興味を抱き、さまざまなアプローチによって、フォームのことや身体のことを研究し尽くしてきた。こうすべきだ、ああしようと正解を追い求めているうちに、本来、持っていた本能に近い感覚がぼやけてしまったのかもしれないと、斎藤が話していたことがある。

考え方も、性格も、ピッチャーとしての持ち味も、何もかもが両極端なふたり――大石はプロ9年目を終えたところでユニフォームを脱いだ。そして斎藤は今年、プロ10年目を迎えようとしている。 「よく周りから『大石くんがやめたね』って言われるんですけど、そういう時って僕、何て言えばいいんですかね。よく頑張ったよね、なんて言えないし、僕ももっと頑張りますとしか言えないでしょう。僕も自分のことで必死だし、大石も、もちろん福井も、それぞれそうだったと思うんです。ただ、大石は僕らのなかで最初に次へのスタートを切った。それを僕は、何かの節目と感じたんでしょうね。もともと僕は昔のことは忘れちゃうタイプなんですけど、時々、ポンと自分の気持ちが熱くなる瞬間が来るんです。  もう、大石とはプロ野球選手として一緒に野球をすることはないんだと思ったら、キャッチボールをしたくなった。だから大石に訊いたんです。キャッチボール、しようよって。そしたら『ああ、いいよ』って返ってきたんで、最後のキャッチボールをやることになりました。それにしても大石の投げるボール、そのままそっくりオレにちょうだいって思いましたよ。アニメにあるじゃないですか、そのパーツだけもらう、みたいな(笑)。大石の真っすぐ、低いところから筒の中をシューッと通って、ポンッと出てくる感じなんです。シューッ、ポンって......そのきれいな真っすぐ、オレにドッキングしてくれと、ホント、そう思いました」

だからといって、大石の分まで何かを背負おうとしているわけではない。斎藤はその時々の自身のピッチングフォームと同じように、大石とのキャッチボールを記憶だけでなく、記録として残しておきたかったのだ。どこか冷めていてどこかで熱い、リアリストとロマンチストが同居する斎藤らしい発想だ。  6月に始まって11月まで続く、短くも長いシーズン。斎藤には間違いなく、チャンスがある。そして、その結果をシビアに問われることは斎藤自身が誰よりも身に染みてわかっている。

石田雄太●文 text by Ishida Yuta

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