Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

『ミタマセキュ霊ティ』はジャンプの新たな王道ギャグ漫画となるか?

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
リアルサウンド

 シンガーソングライターの早川義夫の作品に『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』というアルバムがあるが、鳩胸つるんの『ミタマセキュ霊ティ』(集英社)を読んでいると、このタイトルを思い出す。 【画像】前作『剥き出しの白鳥』1巻  『週刊少年ジャンプ』で連載中の本作はオカルトテイストのギャグ漫画。セキュ霊(レ)ティのミタマ(御霊浄)が、生まれつき霊を引き寄せる特殊体質のハゼレナ(羽瀬玲奈)を警護するという話だ。こう書くとジャンプによくあるオカルトバトル漫画のようだが、まったく印象が違うのは、そもそもハゼレナは霊のことは見えていて、霊が後ろにびっしりと行列を作っていても、別に困ってはいないからだ(でもちょっとでも反応すると調子にのってちょっかい出してくるから無視するのが一番だと思っている)。  逆にミタマは実は霊に対して超ビビっていて過敏に反応しすぎる。アクロバティックなアクションで飛び回って幽霊専用の武器・除霊銃を構えてポーズを決めるのだが、なかなか撃たず、やっと“泣くこと”で真の力を発揮し暴走した霊を倒すことで一話が終わる。  つまり本作は、ミタマというヒーローのおかしさを、ツッコミ目線で眺めるギャグ漫画なのだ。  作者の鳩胸つるんは、少年ジャンプ+で『剥き出しの白鳥』(全4巻)を連載していたギャグ漫画家だ。主人公の白鳥飛(しらとり・かける)は美少年の優等生だが、実は「ゴリゴリの露出狂」で、学校で全裸になることを生きがいにしているド変態。毎回、全裸の白鳥が生徒に正体がばれないように顔を隠して華麗なアクションで逃げ回るのだが、少女漫画における美少年の在り方、それ自体が本作ではギャグにされていた。その少女漫画テイストは『ミタマセキュ霊ティ』にも反映されている。  古くは魔夜峰央の『パタリロ!』(白泉社)あたりがそうだが、少女漫画テイストのギャグ漫画の面白さは、カッコいい男の子をいじわるな目線で愛でながらオモチャにする楽しさをギャグにしていることではないかと思う。  『ミタマセキュ霊ティ』のミタマは『剥き出しの白鳥』の白鳥にくらべると、少年漫画寄りで、より過去にさかのぼると日活アクションスターの小林旭が演じていた『渡り鳥シリーズ』に出てくるような存在だが「そんなカッコいいキャラが実在したらおかしいだろう!」というツッコミ目線が、最初の掴みとして効いている。  それがつまり「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」ということなのだが、この「カッコ良さを誇張すると、めちゃくちゃカッコ悪くなって、超笑える」という視点こそが、ギャグ漫画家の鳩胸が持つ最大の武器である。  だが、これはあくまで導入部で、話が進んでくると、ミタマとハゼレナだけでなく周囲のキャラクターの面白さも際立ってくる。特に背後霊たち。最初は全員同じ姿で顔の目と口が黒丸で描かれた不気味な存在だったが、第一話でさっそく1人(?)が解説キャラとして喋りだし、実は背後霊は喋れるけど、ハゼレナに気を使って黙っていたことが明らかになる。  このあたりの距離感は、地下アイドルとアイドルオタクの関係を思わせるのだが、次第に背後霊たちとハゼレナとジョーがコミュニケーションをとるようになり、ある種のファミリー感が出来上がってくるのだ。  後に幽子と呼ばれる霊は、ミタマに恋をしたことで、女として実体化する力を身に着けて告白しようとする。そんな幽子とハゼレナは親友になっていくのだが、このあたりは本来の意味で少女漫画的でにんまりしてしまう。  他にも「ぞびろ」としか言えない顔から無数の足が生えている悪霊やミタマの師匠にあたるダンディなセキュ霊ティ・ストライプさんなど個性的なキャラクターが続々と登場する。中でも一番強烈なのが第3巻で悪霊コレクター・竹之内ジャンカが召喚するデーモンゴースト。  最初はどんな不気味な悪魔が現れるかと思っていたら、かわいい魚がオーバーオールを着た姿で登場し「あ 自分サーモンっす」と言う。つまり、デーモン(悪魔)とサーモン(鮭)を間違えたという出落ちのギャグなのだが、このサーモン(後にシャケ二郎と呼ばれる)、この後、頻繁に登場して、実はサーモン帝国を築こうという野望を秘めているとか、水に触れると造形がリアルな鮭になるといった細かい設定が出来上がっていく。おそらく作者が気に入ったのだろうが、こういう新キャラが増えていくのも本作の面白さである。  また、ジャンプ読者なら思わず笑ってしまうバトル漫画のパロディも多いのだが、この辺りはまだ踏み込みが浅いので、いっそのことシリアスなバトル漫画に路線変更したら面白いのではないかと思う。『ウルトラマン』のパロディから生まれた『キン肉マン』を筆頭に「ギャグからシリアスへ」というのはジャンプ漫画の王道路線だ。鳩胸がシリアスなバトル漫画を描いたらどんな怪作が生まれるのだろうか? 想像するだけで笑ってしまう。

成馬零一

【関連記事】