柳楽優弥、30代で次なる飛躍へ。コロナ禍で芽生えた「自分の声にも耳を傾けていきたい」との想い
2020年、30歳という人生の一つの節目を迎えた俳優の柳楽優弥。昨年は映画『今日から俺は!!劇場版』で超危険なワル、NHKドラマ「太陽の子」では戦争に翻弄される若者に扮するなど、幅広い演技で見る者を釘付けにした。30代に向けての展望を聞いてみると、「コロナ禍でいろいろなことを考えた」と口火を切り、「自分の心を整える1年になって、改めてこの仕事が大好きだと感じました」と胸の内を吐露。映画『HOKUSAI』(5月公開)で演じた葛飾北斎の描いた波に例えながら、芝居がうまくなりたい一心でもがいていたという時期を振り返ると共に、「10代の自分には負けたくない」と決意に満ちた瞳で語る。 【写真を見る】笑顔を弾けさせた柳楽優弥、全身写真 ■「14歳で特殊なデビューをしてしまった」 「冨嶽三十六景」などで知られる江戸時代の天才絵師、葛飾北斎の生き様に迫る映画『HOKUSAI』。柳楽は若き日の北斎に扮し、「自分の絵とは?」と葛藤しながら、驚くべき才能を開花させていく様を体現した。 「時代劇でありながら、アーティストの生涯を描いていることにとても興味がわいた」という柳楽は、「いまならば、バンクシーが世界に衝撃を与えていますが、そういうアーティストが江戸時代にもいたんだと思うとワクワクして。楽しみな気持ちで、現場に向かいました」といい、「生き様そのものがエンタテインメントになっているような人が大好きなんです。北斎も“夢をかなえたい”と思っている人の、追い風となる人だと思っています」と役柄に愛情をにじませる。 14歳にして是枝裕和監督の『誰も知らない』(04)でカンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀主演男優賞に輝いた柳楽だが、「どうしたら芝居がうまくなれるのか」と頭を抱えながら自身の道を切り開き、いまや誰もが認める実力派俳優の一人となった。その道のりは、本作の北斎の姿とも重なるように感じる。 柳楽は「僕は特殊なデビューをしてしまった」と述懐。「“演じる”ということをなにも知らないまま、スタート地点でものすごく大きな賞をいただいてしまって。大きなものをいただいたら、そこに見合うような自分になるしかない。10代のころは『これは大変だな』と悩むこともありました。20代の初めのころまでは、北斎の描く波。ああいった激しい波のなかにいる感じだったかもしれないですね」と穏やかな笑顔で打ち明ける。 ■「転機は『海辺のカフカ』と『許されざる者』」 「悩んだし、簡単には解決法が手に入らなかった」と語るなか、転機となった作品として振り返るのが、2012年の蜷川幸雄の舞台「海辺のカフカ」と、2013年の李相日監督の映画『許されざる者』だ。 「蜷川さんには『声が小さい』と言われたり、いろいろ怒られましたね。でもその後、李監督の現場に行くと、今度は『声がデカイ』と言われて。『俺はどうしたらいいんだ!』って(笑)。でもそうやってすごい方たちの作品に参加させていただくことができて、厳しい演出を受けることができた。一つ一つ、達成していくしかないんだと改めて感じることができて、その2作品での経験は、僕にとってとても大きかったです」としみじみ。 「芝居がうまくなりたい一心で、自分を追い込んでいた」という柳楽だが、人生経験を積むためにアルバイトに励んでいた時期もある。なんでも『許されざる者』の顔見せの会場にはバイト先から向かったそうで、「李監督から最後に、『なにか質問はある?』と聞かれたので、『僕、受かりますか?』と聞いたんです。すると、李監督からは『まだわからないよ!』って。受かったらバイトを辞めることになるので、切実ですよ!」と苦笑い。「“きっとこれも役に立つはずだ”と信じて、バイトをしていました。僕は、“とりあえずやってみる”というやり方しかできないので、そうすることで平常心を保とうとしていたのかもしれません」とがむしゃらに突き進んだ。 そこからの快進撃は、目を見張るばかり。役者業への熱い想いを胸に「20代は主役だけではなく、積極的に脇役をたくさんやるということが、僕の課題でした」と明かすように、2014年放送のドラマ「アオイホノオ」でコメディ界屈指のヒットメーカー、福田雄一監督とタッグを組み、映画「銀魂」シリーズの土方役も話題に。映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、同年放送のドラマ「ゆとりですがなにか」、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」など、次々と新境地に挑んできた。 「俳優業は一難去って、また一難。困っちゃうんですよね」とこぼしながらも、なんとも楽しそうに微笑む姿からは充実度が伝わる。いつでも大切にしてきたのは、「前向きさ」。「僕は、自分の前向きな性格に支えられていて。ジャンプの主人公のような気分で、前を向いてきたところはあります」と清々しい表情を浮かべる。 ■「30代のスタートに『太陽の子』をできたことは、ものすごく大きなこと」 30歳となった2020年は、映画『今日から俺は!!劇場版』、ドラマ「太陽の子」がお披露目となり、『今日から俺は!!劇場版』では福田組のなかで、卑劣な番長役として強烈なインパクトを残した。一方「太陽の子」では、第二次世界大戦末期を舞台に、核エネルギーの研究を進めつつも、科学者として兵器開発を進めていくことに苦悩する研究者を演じた。柳楽は「『太陽の子』で30代のスタートを切れたことは、自分にとってものすごく大きいこと」と語る。 「発信すること、伝えることの責任感を感じた作品ですし、自分のなかに一つ自信を持つことができた作品です。描くテーマも繊細なので、監督とたくさん話し合って、役作りをしていきました。スタッフ、キャスト、すべてが最高で、関わったみんなが大事に思っている作品。劇場版が2021年公開になりますが、世界に羽ばたいていってほしいと思っています。僕にとってずっと大切にしていきたい作品です」とまた一つ、宝物が増えた。 また、30歳のアニバーサリーイヤーに、自身にとって初のパーソナルブック「やぎら本」も上梓。これまでの軌跡を語るインタビューや、是枝監督、クエンティン・タランティーノ監督らと対談もかなったが、「思いだしたら恥ずかしいような過去まで振り返って(笑)。いろいろ思いだして『どうして、あの時あんなことしちゃったんだろう』と恥ずかしくなったり、逆に『よくやったな』と褒めたいこともあったり」と自らと向き合ういい時間になったという。 「タランティーノ監督は、『誰も知らない』でカンヌの賞をいただいた時の審査委員長だったんです。当時の僕のことを覚えていてくれて、すごくうれしかったですね。僕はいま、英語を勉強しているんですが、英語で会話できたこともうれしくて。タランティーノ監督って、ものすごいマシンガントークなんですよ!」と思わず笑顔がこぼれる。 ■「コロナ禍で自分の心を整えた。自分の声にも耳を傾けていきたい」 「やぎら本」の制作過程と共に、コロナ禍という状況もまた、「パラダイムシフトのような時代。自分を冷静に見つめて、心を整える機会になった」と告白。「たくさんの方々に厳しい教えもいただきながら、ここまで進んでこられた。もちろんそれを大切にしながらも、これからはもっと、自分のやりたいこと、自分の声にも耳を傾けていきたいと思っています。年齢を重ねていくうえで、自分の体のことも大切にしていきたい」と今後のテーマができた。 「やぎら本」の発売を記念したイベントでは、オンラインでファンとつながり、「応援してくださっている方々と、輪を作れたような気がしていて。やっぱりこういう方々に支えられているんだなと思いましたし、ファンの皆さんが僕を楽しんで見てくださっているんだなと感じることもできた。ここまで時間はかかりましたが、時間をかけてやってきて本当によかった」と喜びを噛み締める。 「改めて、僕はこの仕事が大好きなんだなと思った」と意欲をみなぎらせるが、2021年は『HOKUSAI』だけでなく、日本、モンゴル、フランスの3か国による合作映画『ターコイズの空の下で』、スーパー塾講師を演じるドラマ「二月の勝者-絶対合格の教室-」のほか、大泉洋とのW主演で、ビートたけし原作、劇団ひとりが監督を務めるNetflix映画『浅草キッド』も予定されている。「10代の自分には負けたくない。世界三大映画祭の制覇だって、狙っていきます!」と力強く意気込み、「僕は、なぜかトリッキーな役のオファーをいただくことが多くて。30代は恋愛映画にも挑戦してみたいですね」と笑顔で語る。柳楽の芝居に思わず目を奪われてしまうのはきっと、彼自身がもがきながら手にしてきた“生きる力”や“前を向く力”が映しだされているから。これからの活躍も楽しみで仕方ない。 取材・文/成田 おり枝