貯蓄がなく実家を担保にUターン移住…80年代に都会で輝いていた女性たちが田舎で暮らす「明と暗」
田舎暮らしの「着地のしどころ」
移住者同士のコミュニティの様子がよくわかるのは、上野千鶴子『八ヶ岳南麓から』(2023年)である。50代で八ヶ岳南麓に土地を買い、家を建てた著者。以来、東京との二拠点生活をしているのであり、本書は山での日々を綴ったエッセイである。 八ヶ岳南麓に移住してくるのは、もっぱら定年後もしくは早期定年退職をしたというカップルばかりなのだそう。その地域は、「人口は減らないが、高齢化率は上がるいっぽう」なのだ。 そこで自然発生するのは、移住者同士のコミュニティである。知らない土地を気に入り、家を建てて引っ越してくるだけの財力やバイタリティを持っているという部分で共通項のある人々との付き合いは、充実している。 しかし楽しい日々は、長くは続かない。「60代で移住してくるカップルも、20年も経てば経年変化する」のであり、カップルのどちらかが病気になったり亡くなったりするケースが多くなってくる。 妻に先立たれた男性は、子供に引き取られて山を去ることが多いが、逆の場合は、終の住処として山に住み続ける人もいるのだそう。著者自身もまた、パートナーをその地で介護し、看取るのだった。 車の運転は、いつまでできるのか。自分の亡き後、大量の蔵書はどうなるのか。……等々、著者は山の家において人生の夕暮れ時について思いを馳せるのであり、田舎暮らしの着地のしどころについて、考えさせられる本となっている。 * 酒井順子『老いを読む 老いを書く』(講談社現代新書)は、「老後資金」「定年クライシス」「人生百年」「一人暮らし」「移住」などさまざまな角度から、老後の不安や欲望を詰め込んだ「老い本」を鮮やかに読み解いていきます。 先人・達人は老境をいかに乗り切ったか?
酒井 順子