パリ五輪で注目 美食の館「トゥールダルジャン」、大改装でモダンに
パリ五輪の開会式に沸いたセーヌ河畔にたたずむ「美食の殿堂」が今、世界中の食通の熱視線を集めている。1582年の開業以来、有名な鴨(かも)料理で多くの賓客をうならせたフランス最古のレストランの一つ「トゥールダルジャン(銀の塔)」だ。新型コロナウイルス禍の苦境を克服し、宿泊施設を新設するなど大改装に踏み切り、2023年9月に再開業した。現オーナーで社長のアンドレ・テライユさんに改装の狙い、伝統を後世につなぎ新たな歴史を生み出す志を聞いた。 【写真はこちら】たった1室の客室、英国調のバーなど、新生トゥールダルジャンの様子を詳しく
■モダン要素取り入れ、英国調バー新設
――このたびの改装は、文字通り「伝統と革新の融合」を体現したものとして注目されています。パリ五輪は世界中の賓客にお披露目する格好の時機ですね。 「まさにパリ五輪を見据えて料理やサービスを整え、改装オープンにこぎつけました。今回のリニューアルのポイントは、現代のライフスタイルに合わせて少しモダンな要素も取り入れた点です。ディナーの前に立ち寄る英国調クラブのような1階のバーでは、上質な軽食と最高レベルのカクテルをお出しします。近年注目されている、ミクソロジースタイルのカクテルもご用意しました」 「6階のメーンダイニングはショーウインドーにも使用されている特別なガラスを採用し、パリの街の眺望をさらに素晴らしいものにしました」 ――食の都を見下ろす眺めは、グランメゾンならではのぜいたくなしつらえの一つと言えますね。上層階に新設したエリアは、老舗としては大胆な発想で、今までにない価値を顧客に提供しようとの思いがうかがえます。 「一つは5階に設けた150平方メートルの宿泊施設ですね。2人宿泊の1室のみですが、トゥールダルジャンでしか味わえない美食ステイを楽しんでいただけるものと期待しています。最上階に作ったルーフトップバーではノートルダム寺院を眺めながら深夜まで葉巻を楽しめますよ。改装を起点として、我々のガストロノミックな世界を一段と拡張していきたいと考えています」 ――近年は投資会社や巨大ブランドグループをはじめ、様々な企業が著名なレストランやホテルの買収に名乗りを挙げています。こうした競合を迎え撃とうとの気構えも伝わってきますね。 「LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループがプロデュースするラグジュアリーホテル『シュヴァル・ブラン』が2021年、パリに開業しました。ここはガストロノミーに力を入れており、資金も非常に豊かです。同様にあらゆるラグジュアリーブランド、ファッションブランドがホテルやレストランやカフェの領域に参入しています」 「競合他社が増えるなかで、私どもは優位性を維持するため、トゥールダルジャンのメゾンのエスプリ『Savoir de recevoir(サヴォワール・ドゥ・ルスヴォワール、もてなしの心を知ること)』を若いスタッフやお客様に持続的に伝え、ミシュランの星の数をもっと増やしていかねばなりません」