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『AKIRA』4Kでようやく真価を現す物凄さ、リマスター技術者に聞く「やっとフィルム本来のポテンシャルを全て表現できる」

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エムオンプレス

1988年(昭和63年)に公開され、今もってなお、世界で最も知られているアニメの1つに挙げられる大友克洋監督作品『AKIRA』。近年では、(残念ながら延期になってしまったが)2020年の東京オリンピック開催を予言していたことでも話題になった。そんな本作が、この春、4K解像度、HDR(ハイダイナミックレンジ)にも対応した最高画質で再臨する。その名も『AKIRA 4Kリマスターセット』。 【画像】アニメ『AKIRA』場面カット ここでは、「昭和」の時代に生み出された32年前の映像をいかにして「令和」の時代に通じる画質にアップグレードしていったのかを、デジタルリマスタリング担当エンジニアへのインタビューを踏まえて解説する。 取材・文 / 山下達也(ジアスワークス) ◆32年前のフィルムに込められた映像を、今やっと全て取り出せるようになった 2000年代にDVDの台頭・普及に合わせるかたちで大流行した旧作アニメの「デジタルリマスター」。フィルム時代の名作を最新デジタル技術を駆使して、より美しく、見やすい“現代の画質”に修正・補正するというものだ。映像の大元であるマスターフィルムはその組成上、経年劣化が避けられないため、旧作をより良い状態で永久保存するという意味でも価値のあるムーブメントだったと言えるだろう。『AKIRA』も2001年に『AKIRA DVD SPECIAL EDITION』という形でデジタルリマスタリングが実施されている。 その後、2000年代後半に、フルHD(2K)解像度の映像を収録可能なBlu-ray Disc(BD)が登場するとデジタルリマスターの重要性はさらに向上。SD解像度のDVDと比べてリマスタリングの手間とコストが数倍に跳ね上がるため、DVD時代ほどの点数は作られなかったものの、多くの傑作アニメが再度のリマスタリングでさらなる高画質化を果たしている。もちろん『AKIRA』はその中でも最右翼となる作品の1つ。バンダイビジュアル(現・バンダイナムコアーツ)がBD黎明期に発売したデジタルリマスター版パッケージの中でも特に重要な作品と位置付けられており、その型番には一番手となる『BCXA-0001』(2009年発売)が割り当てられていた。 そして今、デジタルリマスターは4Kの時代に。BDの後継規格であるUltra HD Blu-ray(UHD BD)の登場に合わせ、数年前から3度目のデジタルリマスターブームが巻き起こっているのだ(『ルパン三世 カリオストロの城』や『劇場版 あしたのジョー2』などが好評を博しているほか、6月には「ガンダム」シリーズの4Kリマスター版も発売予定)。2020年4月24日に発売される『AKIRA 4Kリマスターセット』(4K収録のUHD BDとフルHD収録のBDを同梱)は、そんな4Kリマスター作品群の最先端となる。 しかし、そこで「数十年前に作られた旧作アニメを4K解像度に引き延ばす意味なんてあるのか?」といった疑問を抱く人も少なくないだろう。これについて、4Kリマスター版『AKIRA』のリマスター作業を担当した株式会社キュー・テック ポストプロダクション事業部 映像部 チーフテクニカルアドバイザー/シニアカラリストの今塚 誠氏は次のように語る。 「フィルムの情報量を技術的に検証した結果、大元のマスターネガフィルムの時点で5Kの、そこから複製されたマスターポジフィルムには4Kに相当する情報量があることが分かっています。また、フィルムをスキャンするセンサーの性能も年々向上しており、フィルムからより豊かな情報が取り出せるようになりました。個人的には、むしろ今になってやっとフィルム本来のポテンシャルを全て表現できるようになったのではないかとすら考えています」 なお、4Kリマスター版『AKIRA』は、マスターネガフィルムに限りなく近い情報量を誇るマスターポジフィルムを最新センサーでスキャンした映像をリマスターしたもの。リリースでは「4Kスキャン」と表現されているが、実際には劇場上映時にはカットされる周辺部分も含めて5K解像度でスキャンし、余裕を持った状態でリマスター作業を行い、最終的に4K解像度(3840×2160ドット)に書き出しているという。色深度も、各色16bitでのスキャンを敢行(bit数が大きいほど繊細な色表現が可能。書き出し時はUHD BDの規格に合わせて10bit化)することで、より深い色情報を引き出している。 ◆「フィルムルック」の映像表現にこだわった4Kリマスター版 これまでも数度にわたりデジタルリマスター版が作られてきた『AKIRA』だが、今回の4Kリマスターでは、大きな方針として「フィルムルック」であることにこだわったという。 「『AKIRA』は、(一般的な劇場アニメと比べて凝った画作りをしているため)重ねているセルの枚数が異様に多く、結果として全体的にややボケた画になっています。そこで過去のBD、DVDではデジタル処理で見え方を鮮明にしているのですが、4K解像度でそれをやると画が壊れてしまうんですね。そうした問題も踏まえ、今回は基本的にはフィルムらしさをそのまま再現するという方向でリマスタリングを行っています」(今塚氏) ここで今塚氏の言う「フィルムルック」のカギとなるのが、映像の粒子感。フィルム特有のザラザラとした点状のノイズには映像に空気感を付与し、良くも悪くもノイズレスなデジタルアニメにはない味を生み出す効果がある。 「ただし、4K解像度ではこのフィルムの粒子がそれまでと比べてより鮮明に取り込まれるため、実はある程度は除去しています。リマスター作業の最初に行ったのは、この粒子補正という作業。映像を通して再生し、最も心地よく感じられるパラメーターを探るところから始めました」(今塚氏) そこから、フィルム上のゴミの除去や、ブレの補正などを実施。現在はこれらの作業をある程度自動化する仕組みが実用化されているものの、2,000カットを超える『AKIRA』の映像を細かく、適切に修正していく作業にはとにかく時間がかかったそうだ。 「ゴミの除去には専任スタッフ2名が3か月かかりきりになっています。なお、『AKIRA』は映像が細かく動く上、先ほどもお話ししたよう多くのセルを重ねていますから、全てのゴミを取りきるのは現実的ではありません。チームとしての方針を定めて、目に付くゴミを中心に丁寧に取り除いていきました」(今塚氏) 今回、取材に先駆けて実際にできあがった映像を一足早く確認させていただいたが、その映像は確かに最新のデジタルアニメとは異なる、良い意味で温かみのあるものだった。「全てのゴミを取りきるのは現実的ではない」とされたフィルム上のゴミや傷についても、これまでのデジタルリマスター版と比べて、明らかに少なく感じられた。 ◆強調しすぎず、それでも鮮明に印象に残る“『AKIRA』の赤”を徹底追求 デジタルリマスターのさまざまな処理の中でも、特に分かりやすいものの1つが「色」の補正だ。DVD時代のデジタルリマスターで特に目立ったのが、テレビの性能向上に合わせて、色味をより派手にコッテリとさせたもの。ただし、これは制作者が本来意図していた色味からかけ離れてしまうという問題もある。事実、あるデジタルリマスター作品では、オリジナル版の担当アニメーターが派手すぎる色味に苦言を呈するということもあった。今塚氏は、そうしたデジタルリマスターもひとつの方針と理解を示しつつ、4Kリマスター版『AKIRA』でその方針を採らなかった理由を次のように説明する。 「今回の4Kリマスターのお話をいただいた時、改めて全体を通して作品を見直し、赤がとても印象的な作品だと感じました。金田のバイクの赤、ジャケットの赤……、要所要所で赤がとても効果的に使われているのです。しかし、その赤は一様ではありません。 バイクの赤も光が当たったところの明るい赤と影の部分の赤では全く違っていますし、時間帯によって朱色っぽく見えたり、濁っていたりもします。それを上手に表現する方法はないかをまず制作サイドと話し合い、結論として、最新センサーで取り込んだ豊富な色域を持った映像を、全体のバランスを整えていく中で自然に現れる赤が『AKIRA』の赤なのだという結論に達しました。 もちろんある程度の強弱は付けていますが、不自然に強調するということはやっていません。むしろ、シリアスな雰囲気を演出し、湿った空気感を作りたかったので、全体的にも色は落ち着かせています」(今塚氏) その上で4Kリマスター版『AKIRA』では、カットごとの色味の均一化にも多くの手間をかけている。セルアニメでは、1つの画を複数枚のセルを重ねて表現するのだが、この枚数が増えると、セルの透過率の関係からどうしても色味や明るさが変わってしまう。結果、同じシーンでもセルをたくさん重ね合わせているカットとそうでないカットでは見た目が大きく変わってしまうのだ。特に『AKIRA』では重ねているセルの枚数が異様なまでに多く、その差が大きく現れる。 「実は、今回一番苦しめられたのがここです。『AKIRA』はほぼ全シーンで、カットによって色味や明るさが違うということが起こっていて、それを補正していかなければなりませんでした。あるシーンが20カットあったら、まずはそれを通して確認し、均等に見えるように調整していくという作業をしています。 例えば中盤の金田とケイが牢獄に閉じ込められるシーンなどは大変でしたね。光の当たっている場所と影になっている場所の明暗差がカットによって違っていて、揃えるのにとても苦労させられました。これは、単に色や明るさを揃えるという単純な話ではなく、全体を見つつ、シーンの時間軸や意味を考える必要があります。このシーンでは実写作品を想像し、現実だったらこうだろう、と考えながら手を加えていきました。 他にも夕景のシーンでカットが切りかわると急に夕景感がなくなるところがあり、そこもシーン全体で夕景感が出るようにしました。こうした補正によって作品がだいぶ見やすくなったのではないかと考えています」(今塚氏) ◆HDRのエキスパートがこだわり抜いた光の表現にも注目 もう1つ、4Kリマスター版ならではの新要素となっているのが「HDR(ハイダイナミックレンジ)」だ。これは映像の輝度情報を大きく拡張するデジタル映像の新規格。これまでのテレビでは再現不能だった、目を細めるようなまばゆい輝きなどを、表現者の意に沿うかたちで表現できるようにするものだ(再生にはHDRに対応したテレビが必要)。実は今塚氏は、まだ業界がHDRについて準備が進んでいなかったころから率先してHDRを研究、プレゼンしてきたHDRのエキスパート。アニメーションのHDRがどうあるべきか、多くの作品に携わる中で見極めてきたという。 「HDR対応というと、つい明るく輝かせたくなるのですが、やりすぎると光ばかりが目立ってしまい、映像に没頭できなくなってしまいます。もちろん、冒頭の金田のバイクのヘッドライトや前輪がスパークするところ、その後の夜の街並みの街灯などはここぞとばかりにHDR感を出していますが、全体的には光として感じてほしい部分を無理なく伸ばすという方針でやっています。 技術的に言うと、照明など、透過光で表現されている部分などはよく伸びますね。逆に、落下してくるガラスの破片の反射光など、画として(インクで白く)描かれている光についてはあえて強調したりしていません。このあたりは長年の経験値でやっています。どのくらいの明るさが見やすいのか、インパクトがあるのか、知見に基づいて1カットずつ調整していきました」(今塚氏) なお、HDRという技術は「明るさ」を強調するための技術であると誤解されがちでもある。確かに技術的にはそうした側面もあるのだが、それによって表現されるのはまばゆい「輝き」だけではない。 「輝度が上がるということは、そこに色の情報も付いてくるということ。それによって、画にリアル感、立体感が出てくるんです。HDRのエリアまでいかないところでも、(これまでの明るさの上限を100として)60を80にもっていくだけでメリハリがつくようになります。具体的には冒頭のジュークボックスのシーン、あのCDが回るところもかなりしっかり調整を入れていて、アクリルのカバーに光を感じるようにしてリアリティを高めています。 こうしたこだわり、工夫はそれこそ無数に盛り込んでいて、1カットずつ解説を入れられるくらい(笑)。これはぜひ、HDR対応の4Kテレビで見ていただきたいですね」(今塚氏) ◆32年を経て実現した新時代の『AKIRA』体験 アニメ史上に燦然と輝く金字塔的作品を、最新技術を駆使して現代の映像として甦らせた4Kリマスター版『AKIRA』。もちろん大友克洋監督の監修の元で仕上げられており、今塚氏曰く「HDR効果含め喜んでいただいた」そうだ。 なお、ここで強調しておきたいのが、この映像が、32年前に劇場公開された状態を“再現”したものではないこと。なぜなら、かつて劇場で上映されたフィルムはマスターポジフィルムを全国の映画館に配布するために複製(デュープ)した、画質的にはかなり劣化したものだからだ。その点、4Kリマスター版『AKIRA』の映像はこれまで一般観客が目にしたことのないマスターポジフィルムを元にしたもの。つまり本作は、当時の感動を超える、これまでにない『AKIRA』体験を与えてくれるものということになる。アニメファンを自認するならば、これは観ておかねばならないだろう。間違いなく必見の1枚だ。。 32年前、映画館で『AKIRA』を見たという人も、これまで一度も『AKIRA』を見たことがないという若いアニメファンも、ぜひ、この体験を味わってほしい。最高の感動を満喫するためにはHDR対応4Kテレビに加え、UHD BD対応のプレイヤーも必要になるが、間違いなくその価値はある! (c)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会 『AKIRA』4Kでようやく真価を現す物凄さ、リマスター技術者に聞く「やっとフィルム本来のポテンシャルを全て表現できる」は、WHAT's IN? tokyoへ。

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