2025年、生成AIは次のステージへ--ITR舘野氏が描く未来像
生成AIとともに働く時代、リーダーに求められるスキルとは 水泳的なアプローチが求められる生成AIに必要なリーダーが持つスキルとしては、(1)技術の有望性を見極める、(2)最適なユースケースを発掘する、(3)プロジェクトの投資妥当性を判断する――の3つを挙げた。 (1)については、技術の有効性を見極める視点を持つこと。筋がいいか、脈があるかといった判断ができる、「目利き力」を持つ必要がある。「企業の方からAI技術に関しての質問を受けるが、能力、仕組み、適用の3つを混ぜて論じられているのが現状。この3つをしっかりと分けて評価いただきたいが、まずは能力を見るのが良いと思う。それにより、この技術が信頼に足るものなのか、成熟度はどの程度なのかが見えてくるので、プロジェクトを先に進められる。この姿勢が大事だと思う」とした。 (2)の最適なユースケースの発掘は、どのユースケースにAIを優先的に適用するのがよいか、自分なりの目を持つこと。専門家の意見を聞くことも大事だが、自分で判断できないと困るとする。 (3)のプロジェクトの投資妥当性の判断は「むしろやめる時」が大事とのこと。思うようにプロジェクトが進まない時、どこでやめるか、もしくは続けるかの判断はリーダーにしかできないとする。舘野氏は「プロジェクトの成功を定義して、それをきちんと測定したり、ビジネス目標にしっかり結びつけたりしないとだめ。当たり前のことと思うかもしれないが、エンジニア主導でプロジェクトを進めるとこの部分が抜けることが多い。リーダーが絶えず、今進めているプロジェクトのテーマを共有し、常に意識を合わせる必要があると思う」と強調した。 続けて「特に重要なのは、3点目のプロジェクト投資の妥当性の判断。うまくいかなかった時に続けるのか、中止するのかは悩むところ。事例をみてみると、完全に中止するのではなく、一時停止という選択をする企業はかなり多い。止めてしまうのではなく、再開できるような形で一時停止にする判断もAIに関しては有効なのではないかと考えている。AIについては失敗はつきもの。完全に止めてしまうとノウハウが失われてしまうので、何か新しい技術が登場した時に、プロジェクトを再開できるような形にしておくことも大事だと思う」と提案する。 生成AI時代、もつべきマインドセットは「初心者」 舘野氏は、ビジネスでのAI活用を考える際に持っておきたいマインドセットとして、(1)“初心者“の心構えをもつ、(2)組織文化の共有、(3)オープンで協力的な風土の醸成――の3つを紹介。 (1)については、「今、生成AIの全てをわかっている専門家はいないと思っている」と話し、現時点で決めつけるような判断はせず、常に自分は初心者だと思ってほしいと注意を促す。 (2)および(3)の組織文化の共有とオープンで協力的な風土の醸成では、とある企業で窓口の自動化に当たり、デジタルアバターを用意したエピソードを紹介。「会社に合ったデジタルアバターを作ろうと思っても、自分が勤める会社らしさをきちんと理解できている人はあまりいないと思う。これからは『自分たちの会社らしさ』を言語化していくことが非常に重要。加えて、社内で複数の部門が連携したり、外部パートナーを招いてディスカッションしたりする中で、オープンな協力体制というのは不可欠になる。ぜひリーダーの方にオープンな風土をつくっていただきたい」と組織としてのあり方を示した。 2025年、生成AIはどう進化する? 2025年に向けては、(1)AIエージェントへの進化、(2)言語モデルの小規模化と専門化、(3)AIガバナンスの関心の高まり――を挙げた。 「キーワードとしてかなり上がってくるだろう。関連ニュースもたくさん出てくると思う」とした(1)のAIエージェントは、LLMと外の情報を組み合わせてより適切な回答を生成するRAGからさらに一歩進み、エージェントになることでアクションが入ってくるという。 「回答に基づいて具体的なツールを使ってアクションまで実行できるようになる。場合によっては、どのツールをどのように使うべきかをエージェントが考えて実行に移す。これが進むとガバナンスのレベルなども深く、かつ狭くなるため、ユースケースを見極める時など、さらなる検討が必要になると思う」と新たなステージに進むと予測する。 (2)の言語モデルの小規模化と専門化については、一つのトレンドと位置づける。「生成AIが作り出したコンテンツが増えすぎ、そのデータを学習するのでデータ汚染が進んでいる。現在、社内にあるドキュメントのほとんどは人が書いたオリジナルだが、1年もすると、もしかすると半分程度は生成AIが書いている可能性がある。これを繰り返すことで本当に大事なものが失われたり、バイアスが生じたりするのではないか」とLLMが今後直面するであろう課題を話す。 そうした中で期待されるのが、小規模言語モデル(SLM)だ。LLMに比べて軽量かつ高速、低コストで動作するSLMは、特定のタスクやドメインに特化した学習をすることで、高いパフォーマンスを発揮すると見ている。 最後に(3)AIガバナンスの関心の高まりについては、「2025年は欧州連合(EU)で『AI規制法』が施行開始するところもあるので、国や政府主導の規制が活発化する可能性がある」と周辺環境と照らし合わせ、生成AIのポジションを説明した。 舘野氏は「生成AIは情報システムの価値を再定義する可能性を秘めたテクノロジー。常識にとらわれず、柔軟な発想と行動様式が求められる。組織に取り入れる上では『新技術の有効性判断』『ユースケースの発掘』『投資妥当性の評価基準』の3つのスキルをぜひ備えていただきたい。2025年は、より高度な活用法が次々に登場してくると思うので、何をAIに任せ、どこを人が担うべきかを明確にし、組織に定着させてほしい」と組織における生成AIの重要性を説いた。