「老後の生活に1億円かかる!」は本当か?
“経験したことがない”から、すぐ信じ込んでしまう
老後の生活というのはいずれ誰もが経験することですが、退職前の人は当然未経験ですから、不安に思ってしまうのはしかたがないと思います。問題は経験をしていない人があれこれコメントしていることです。評論家や金融機関に勤める人などの多くはまだ40~50代で実際に老後の経験はありません。こうした人たちが老後の生活費用について不安をあおっていますが、実際に年金生活を体験している私からすれば、どこか違和感があり、いずれも机上の空論っぽい感じが否めないのです。面白いことにこの金額は最近のことではなく、ずっと昔から言われています。私も今から20年以上前の40歳の頃にこのフレーズを目にして驚いたことがありました。 ファイナンシャルプランナー(FP)の人がよく「収入ではなくて収支が大事だ」と言いますが、これは全くそのとおりです。支出が収入を上回らないようにきちんとコントロールしていれば老後生活で破たんするということはそれほど心配することはありません。要は支出をどれぐらいと見ておくかが重要なポイントです。言うまでもなく支出というのはその人がどんな生活をしたいかということによって全く違います。
まずはもらえる金額を把握! それから考えよう
さらに言えば、1億円という金額を聞くとそのお金を全部自分で用意しなければならないのか! と思ってしまいます。ところがサラリーマンで定年まで勤めた人であれば平均寿命まで受給できる公的年金の額はおよそ6000万円程度ありますから、月20万円程度で生活するなら日常生活費は公的年金である程度カバーできます。しかも公的年金は終身、つまり死ぬまで支給されるのです。 さらに会社に退職金や企業年金等があればそれが上乗せされますから、仮に老後の暮らしに1億円かかるとしても7~8割程度は自助努力以外でまかなわれることになります。そうした諸々の公的な給付や会社からの年金・退職金の額をまず知ることが大切です。そのうえで自分の生活スタイルであればとても足りないというのであれば、それに備えるというのが正しい順序です。 言うまでもなく金融機関は老後不安をあおります。これは当然のことで、そうやって金融商品を販売するのが彼らの仕事ですから、別に彼らが悪いことをしているのではありません。ただ、それに乗せられてよくわからないのに勧められるまま投資をしたりするというのは慎重に考えた方が良いと思います。 大切なことは人から言われたことをそのまま信じるのではなく、自分の頭で考え、自分で判断するということですね。 (経済コラムニスト・大江英樹)