深呼吸して肺に酸素をいっぱい取り込むのはNG?実は「呼吸のしすぎ」で細胞が酸欠に!
心地よく過ごしやすい秋が訪れたというのに、呼吸するのも億劫になって疲れやすいという人はいないだろうか? 前回、細胞の酸欠についてお伺いしたハーバード大学医学部PKD Center Visiting Professor、ソルボンヌ大学医学部客員教授 根来秀行さんに細胞呼吸について聞いた。
「近年、スマホやパソコン操作によるIT猫背が増えて、細胞呼吸を阻害するような、浅く速い呼吸をしている人が目につきます」 呼吸が浅くなっているのは、コロナ疲れも…。やっぱり深呼吸して肺に酸素をいっぱい取り込んだほうが、細胞呼吸の効率も上がるんだろうか? 「それが違うんですよ。酸素をいっぱい吸い込めばいい気がしますが、普通に生活している場合、血液中の酸素が不足することはほとんどなく、むしろ体内には酸素が余っていることが多いのです。 実は、酸素の運搬は動脈血中の二酸化炭素濃度に左右されるんです。酸素を運ぶのは赤血球のヘモグロビンですが、二酸化炭素濃度が低いと、ヘモグロビンは酸素を切り離しにくくなり、細胞に到着しても酸素を引き渡すことなく、結合したまま再び血中を漂うことに。せっかく酸素が血中にあるのに、細胞呼吸の効率は著しく落ちるのです」 肺呼吸で取り込まれた酸素は気管、気管支、肺胞を介して毛細血管へと取り込まれ、毛細血管を通じて全身の細胞に運ばれる。その際、酸素を運ぶのが赤血球のヘモグロビン。細胞に到着するとヘモグロビンは酸素を切り離し、細胞内のミトコンドリアへと引き渡す。
「細胞呼吸で使われる酸素の量は、実は血中の二酸化炭素の量で決まるのです。これは“ボーア効果”と呼ばれる、100年以上前に発見された理論によるものです」 縦軸は動脈血中のヘモグロビンと酸素がくっついている割合。横軸は赤血球の周囲の酸素の量、つまり赤血球から切り離された酸素の量を意味する。血中の二酸化炭素が多いほど赤血球から酸素が切り離され、細胞により多くの酸素が渡されていることがわかる。 「血中の二酸化炭素濃度が基準より低いと、赤血球のヘモグロビンは酸素を切り離しにくくなります。ヘモグロビンと結びついたままの酸素は、細胞内には入れず、細胞呼吸として利用されることもないまま、呼気として体外に排出されます。また、余った酸素の一部は、血中にとどまっている間に酸化して活性酸素になり、細胞を傷つける側に回ることさえあります」