ニコラス・ケイジ「自分の名前をグーグル検索したらパニックに陥ったよ」(映画『ドリーム・シナリオ』インタビュー)
ハリウッドのトップ俳優には、トラブルやスキャンダルに見舞われ、ジェットコースターのような人生を送る人もいる。ニコラス・ケイジは、そんな一人かもしれない。1995年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、『ザ・ロック』や『フェイス/オフ』といったアクション大作も成功させて俳優人生が安泰かと思われたら、世界各地の豪邸購入に加え、古城や恐竜の化石、高級車、大好きなアメコミの膨大なコレクションなど、映画で得たギャラを文字どおり湯水のように使い、税金未納も含めて莫大な借金を作ってしまう。これまで離婚歴は4回と、家庭生活も不安定。しかしそのニコラス・ケイジも、ここ数年、人生のジェットコースターの高い場所をキープしている。 出演作が軒並み高い評価を得て、新作『ドリーム・シナリオ』ではゴールデングローブ賞の主演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネート。ケイジが演じる大学教授のポールが、何百万人もの夢に同時に現れるという“怪現象”が起こり、彼は一躍、有名人になるが……という物語。気鋭のスタジオ、A24の製作ということで作品自体もユニーク。この『ドリーム・シナリオ』のオンラインでの会見では、質問に答えるケイジの背後から、まだ1歳(当時)の娘の泣き声が聞こえ、彼が照れくさそうな表情を浮かべるなど、家庭生活も幸せいっぱいであることをうかがわせた。 ーー『ドリーム・シナリオ』のオファーを受けた理由から聞かせてください。 「まずタイトルに惹かれたんです。『夢(ドリーム)』と脚本(シナリオ)』という単語が両方とも好きだったので、脚本を読んでみたところ、俳優人生でもベスト5に入るくらいの仕上がりでした。主人公のポールを演じるうえで、僕自身が十分に積んできた人生経験を生かせると感じましたね」 ーー脚本ベスト5の他の4本とは? 「『赤ちゃん泥棒』、『バンパイア・キッス』、『リービング・ラスベガス』、そして『アダプテーション』です」 ーー大学教授役にも親近感をおぼえたとか……。 「そうなんです。父が大学教授で、僕の記憶の中には、生徒たちの想像力を広げることに喜びを感じる彼の姿が残っています。学問の世界は競争が激しく、大学内で多くの教師が誰かを出し抜こうとしている事実も、父親を通して知っていました。ですから僕はポールを演じる際に、学内で不遇な目に遭いながらも、生徒たちと心から繋がりを持ちたい教師であることを意識したんです。そこに父親像を無意識に重ねていたかもしれません。だいぶ前の作品ですが、1989年の『バンパイア・キッス』では、キャラクターと一体化する方法として、父が英語の授業をする際のちょっとイギリス人っぽいアクセントを真似したりもしましたよ」 ーーポールが生徒を授業に集中させるという意味で、今回も“声”が重要でした。 「実は演技をはじめた頃、僕は自分の声にコンプレックスがあったんです。映画の中の僕のヒーロー、たとえばハンフリー・ボガートなどはルックス以上に声の響きで魅了していました。それに比べると、僕の声はちょっとインパクトに欠けると思って……。だから僕は“ニック・ケイジの声”で個性を開発しようと決め、今に至っています」 ーーポールが多くの人の夢に出てきて、自分ではどうすることもできない状況を、どんな風に理解したのですか? 「たしか15年くらい前ですが、ある朝、目が覚めて、なぜか自分の名前でグーグル検索をしたんです。一番やっちゃいけないことですよね(笑)? そこで見つけたのは、僕が過去に演じたキャラクターが危機的状況になるシーンを集めたマッシュアップ動画。眺めているうちに自分でもパニックになり、それからしばらく食事中も“心ここにあらず”で、自分でも何か起こっているのかわからない状態になりました。もちろん動画を削除することはできません。『ドリーム・シナリオ』の脚本を読んで、その時の経験がリンクしたんです。人は夢をみるけれど、それを他人がコントロールすることはできない。そんなポールの切実な思いが痛いほど理解できました」 ーーちなみに、あなたはよく夢をみるタイプですか? 「僕は夢をたくさんみます。両親の話では、子供の頃から悪夢でうなされていたそうです。大人になってからは、悪夢への対処法も考えるようになりました。たとえば飛行機事故の夢が続いた場合、目が覚めた時にそのような事故に遭った人への同情で心を満たすようにするわけです。思いやりの精神に方向性を変えることで、悪夢がトラウマにならない。ただ夢と現実の関係や、夢が叶える魔法などは、冷静に考えると現実的じゃないと感じますね」 ーーでは、みたい夢は? 「ありきたりですが、妻と子供と一緒に過ごしている夢です(笑)」 ーー俳優のキャリアを始めて40年以上が経ちますが、演技への取り組み方は変わってきましたか? 「結果がうまくいったかどうかは別にして、僕にとって過去の演技はすべて“実験”でした。今もどこか学生のような気分で、長期間の勉強をしている感覚なんです。今年60歳になり、その少し前に『ドリーム・シナリオ』のような作品と出会えたのも、実験の積み重ねの結果でしょう。オスカーをもらった『リービング・ラスベガス』の頃を振り返ると、役との感情的な繋がりを必死で見つけ、練習していました。本番直前までセリフを繰り返したり、セットをウロウロ歩き回ったりもしましたが、最近は監督の『アクション!』という声で瞬時にスイッチが入りますね。役に入り込んだうえで感情表現のテクニックを駆使しているんです」 ーーでは今後の目標は? 「僕が愛した往年の映画、若い頃に憧れた俳優の“リズム”のようなものを身体に染み込ませ、現代の作品に持ち込むことでしょうか。演技に抽象性やシュールレアリズムを与えたいんです。このようなチャレンジを成功させた例といえば、たとえば美術の世界ではピカソやアンディ・ウォーホールなと何人も挙げられます。彼らの功績を、僕は演技という分野で目指したいんですよ。もちろんキャラクターの本物の感情を観てくれる人に伝えることが大前提ですけれどね」 『ドリーム・シナリオ』11月22日公開 製作・出演/ニコラス・ケイジ 監督・脚本/クリストファー・ボルグリ 出演/ジュリアンヌ・ニコルソン、リリー・バード、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ 配給/クロックワークス 2023年/アメリカ/上映時間102分
取材・文/斉藤博昭 text:Hiroaki Saito