「ゆうちにー ゆうちにー」脳出血で要介護5・夜中に発作…それでも失語症の母を介護してよかったと思う瞬間
■今思えば「母からのSOSだったのではないか」と 「『介護は突然やってくる』と聞いてはいましたが、本当にその通りです。親が高齢になったら、介護について下調べをしておくことはとても大事だと思いました。私は母がとても元気だったため、全く準備していませんでしたが、知識があれば、事業所選びなどの準備を進めるうえで、戸惑う事が減ると思います。実際に介護をしていて思うのは、自分が疲弊していたら優しく接することが難しくなり、その事で新たな悩みを抱えるということ。なので、介護サービスなど、利用できることは利用することが大切だと思います」 母親は言葉が思うように出なくなってから、落ち込むことが多くなり、筑紫さんや叔母に不安な気持ちを打ち明けていた。その度に筑紫さんや叔母は励ましたが、姉だけは違った。 「負の言葉をごちゃごちゃ言い続けてため息。やめてほしいわ。私は子どもには迷惑をかけないようにしたいわ」というLINEを筑紫さんに送っいたのだ。 「姉にはがっかりしました。(今の状態になるまでは)まだ母は何でも自分でできたし、姉夫婦の洗濯もしてくれていました。なのに姉は母に迷惑をかけられていると言わんばかり。母の一番近くにいる姉が、弱気になった母を見て励ますどころか疎ましく思っているなんて……。姉に母のこれからを任せることに不安を覚えました」 母親が倒れる2日前のことだった。 筑紫さんは、母親から3年ほど前に、「将来的にはお母さんはお前と暮らしたほうがよさそうだ」と言われていたにもかかわらず、具体的に動かなかったことを後悔していた。今思えば「母からのSOSだったのではないか」と、それを見過ごしてしまった自分を責めていた。 子は必ずしも親の介護をしなければならないことはない。 だがもちろん、子がしたいと思うならば、心ゆくまですれば良いだろう。大切なのは納得のプロセスだ。筑紫さんの看護師の友人たちが言っていたように、くれぐれも無理は禁物。娘である筑紫さんのことをわからなくなってしまった時は、どうか罪悪感を持たずに、特別養護老人ホームへの入所を検討してほしい。 ---------- 旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ) ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)刊行。 ----------
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂