「選挙前の寄付、全面禁止を」、河井元法相夫妻事件が問い掛けるもの 元広島地検特別刑事部長・弁護士の郷原信郎氏に聞く
河井克行元法相と妻の案里元参院議員による大規模買収事件は、河井夫妻の有罪に加え、被買収者の地方議員の多くも有罪が確定し、検察の捜査は終了した。事件は、国会議員から地方議員へカネが流れる選挙の実態を見せつけ、京都や新潟でも疑惑が浮上した。事件が浮き彫りにした法制度の不備をどう補正していくのか。元広島地検特別刑事部長で弁護士の郷原信郎氏に聞いた。 【表】広島地裁が略式命令を発表した広島県内の元政治家 ―河井夫妻事件を巡る検察当局の捜査をどうみていますか。 評価できない面が大きいと言わざるを得ない。一つは、当初不起訴にした被買収者の処分。検察審査会から「起訴相当」の議決が出て、渋々略式起訴で収めたが、検察の常識からありえない、ひどいものだった。 もう一つは、買収資金の原資がほとんど未解明で終わった。自民党本部が河井夫妻に提供した1億5千万円を含め、事実解明が不十分だった。 一方で、検察が意図してやったわけではないが、国会議員から地方議員へのカネの流れが恒常化していたことが克行氏の口から語られた。現金を受け取り、被買収者として起訴された議員の一部は「こんなものは当たり前だった」と公然と言っている。集票マシンになっている地方議員に多額の金が流れる選挙の実態を明らかにした点は政治的、社会的に評価できる。(似たような疑惑が発覚した)新潟、京都にも波及した。 ―起訴された地方議員の一部から「検事が取り調べの時に『狙いは河井夫妻。先生には議員を続けてほしい』と言っていたのに」と恨み節が聞かれました。 地方議員からすれば、だまされたというのは間違いないだろう。処罰されると思っていれば、案里氏の選挙に関するカネだという認識を認めることもなかったのではないか。そうなれば、事件自体が立件できなかった。約束したというところまで言えるのか、期待をさせたというだけなのか、起訴された議員の公判で明らかになるだろう。
―こういうことは取り調べでよくあるのですか。 検察は当時、検事総長人事の問題で首相官邸と対立関係にあった。安倍政権側への捜査を何が何でもやるんだという状況になり、被買収者は不問にし、河井夫妻一本に絞るとの決断をしたのではないか。それによってできる事件だった。本来禁じ手だが、それで突っ走ることにしたのだろう。 ―国会に求められる役割をどうお考えですか。 やるべきことは、選挙に近い期間の寄付の全面禁止。これしかない。期間は180日でどうだろう。 公職の候補者は公選法で選挙区での寄付が制限されているが、政治団体、政党支部は除外されている。このため、地方議員が関係する政治団体、政党支部へのカネは選挙前でも配れる。 それを一定期間は、政治団体、政党支部に対してであっても公職の候補者からの寄付は禁止する。条文を数行改正すれば簡単に禁止できる。今夏の参院選の前に議論するべきだ。 現在の法制度でも悪質なケースは買収罪で摘発されるだろうと思ったら大間違い。カネを配った側、受け取った側が認めず、政治資金という弁解が出てきたら、摘発は無理だ。河井夫妻事件はひょうたんから駒だった。買収罪に頼ってはダメ。公選法できちんと寄付制限を設けるべきだ。 広島は事件が起きた場所で岸田文雄首相のお膝元。このまま参院選をやるなんて冗談じゃない。広島から寄付制限の話を徹底して訴えていくべきだ。この機会を逃すと10年変わらない。
<プロフィル>
ごうはら・のぶお 83年に検事となり、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事などを歴任して06年に退官。同年に弁護士登録し、08年に法律事務所を開設した。67歳。
中国新聞社