[山口二郎コラム]衆議院選挙に表れている民意
日本では10月27日に衆議院選挙が行われた。日本は議院内閣制の国で、首相はいつでも任意に衆議院を解散できることになっている。10月初めに新しく首相に就任した石破茂氏が、内閣発足直後に解散を行い、国民の審判を受けると述べた。首相が就任直後に解散をするというのは、かなり異例なことである。 異例な展開の始まりは、今年8月に岸田文雄前首相が退陣を表明したことである。自民党の多くの政治家が政治資金収支報告を怠って裏金をため込んだことに対して国民の怒りが高まり、支持率が落ち込んだことが岸田退陣をもたらした。それを受け、自民党のリーダーを決める総裁選挙が9月に行われ、党内に応援者がいないとされた石破茂氏が当選した。石破氏は、この十年ほど、自民党政権の腐敗や政策的失敗を党内で批判し、権力者を恐れず筋を通すというイメージを持っていた。だからこそ、自民党の政治家の金銭感覚と国民的常識が大きくかけ離れた時に、党外の一般国民から期待を集めた。また、選挙に向けて自民党のイメージ転換を図りたい政治家たちも、石破氏を支持した。 しかし、石破氏は首相に就任した途端に、その前に言っていたことをことごとくくつがえした。総裁選挙の中で、新政権発足後なるべく早く衆議院選挙を行うべきだと主張した候補者に対して、石破氏は、臨時国会で予算委員会を開くなどして、政府与党と野党がしっかり論戦を戦わせ、国民に判断材料を与えてから選挙を行うべきだと主張した。早期解散論は、新政権ができたばかりで人気があるうちに選挙をしたいという自民党の生き残りのための利己的な議論であった。それに対して、石破氏は民主主義の正論を唱えたと私も感心した。 だが、石破首相は就任直後、衆議院を解散することを表明し、国会での代表質問、45分の党首討論を行っただけで、解散を行った。本来なら、この選挙は、人口減少と人手不足による経済の収縮、社会保障の財源とサービスの確保、物価上昇と賃金低下など、国民の生活と日本の未来に関する重要な政策課題について各党が論争し、国民が選択する機会となるべきであった。しかし、石破首相が就任後わずか1週間ほどで解散を行ったために、政策課題についての与野党の議論は全く深まっていない。要するに、正論派と思われていた石破首相も、新政権の人気が高い間に選挙をやってしまいたいという自民党の大半の政治家の利己主義に沿って行動したのである。 人々は裏金をためていた80人以上の議員に対する厳しい対応を求めていたが、石破首相はそのうち特に悪質な者12名を非公認としただけであった。政治家にとって党の公認を得られないこと、過半数を争う党の指導者にとって公認候補が減ることは、いずれもつらいことである。しかし、国民から見れば、多くの裏金政治家がいつも通り立候補できるというのは甘すぎる処分である。 2012年12月に自民党が政権に復帰して以来、国政選挙で自民党は勝ち続けた。その間、安倍晋三政権の下での国有地の不正売却をめぐる疑惑とそれに関する公文書の改ざんなど様々な権力犯罪があっても、約半数の有権者は選挙を棄権し、多くの有権者はその種の腐敗を忘れ、自民党は民意を恐れなくなった。 実は、2012年から20年まで続いた第2次安倍晋三政権の下で、権力の私物化、経済金融政策の乱脈など、自民党政治には様々なひずみがたまっていた。地殻プレートにたまったひずみが解放されて地震が起こるのと同じように、今の自民党は安倍政治のひずみによって大地震に見舞われているのである。この選挙の結果次第では、日本の政党政治は大きな再編の過程に入るのかもしれない。 山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)