ピチカート・ファイヴのリーダー小西康陽、ソロ歌唱アルバム発表…「中学の頃から思い抱いてきた」
音楽家の小西康陽がソロ名義での歌唱アルバム「失恋と得恋(とくれん)」(ユニバーサル)を出した。プロデューサーやDJとして活躍する小西自らが歌い、ソロ作を発表するとは意外だったが、味わい深い歌が染みる逸品に仕上がっている。
1990年代、「渋谷系」と呼ばれたアーティストたちの中心的存在で、野宮真貴らがボーカルを務めたピチカート・ファイヴのバンドリーダー。2001年の解散後は八代亜紀のジャズアルバムをプロデュースしたり、ソロプロジェクトのピチカート・ワンを展開させたりしてきた。
「実は中学生の頃から自ら歌いたいという思いを抱いてきた」と語る。22年に誘われるままにギター弾き語りのライブを行ったところ、過去の自作曲を歌うことに目覚めたという。ソロプロジェクトで自身が歌唱するライブ盤も出している。
本作のきっかけは昨年8月の演奏会。チェロやピアノなどによるアコースティック編成での歌唱が好評で、周囲からスタジオ録音しようと後押しされた。「依頼されて音楽をつくることが好きなんだけど、自分の顔や名前を出して、自分の曲が入ったアルバムを1枚作れたらいいと思ってた矢先に、今回の話が来た」
「悲しい歌」「陽の当たる大通り」といったピチカート・ファイヴ時代の曲を中心に、カヒミ・カリィらへの提供曲や、親交が深かった若林純夫の曲を小西自身の声と新たなアレンジで聴かせている。
新曲「あなたのことがわからない」は、〈あなた〉とのつながりを求めながら孤独を抱える心象を、飾らずに口ずさむ小西の歌唱が印象的だ。
「実はこの曲も元々はある歌手のために書いた作品。自分で歌う曲や言葉を探せないのか、探すことに照れてるのか、自分でもよくわからないけど、まだうまくいかない。一人称が『僕』『俺』『私』なのか、それさえつかめない。自分で歌を書いて、歌うことに照れない人は本当に素晴らしい」とほほえむ。
ポップマエストロと称される音楽家は、自らの歌を探す旅の入り口に今、たどり着いたのかもしれない。