熱海土石流災害から1年…伊豆山地区でたった一つのクリーニング店 被災後4カ月での営業再開にも葛藤が 静岡・熱海市
まもなく発災から1年となる静岡県熱海市の土石流災害。被災したクリーニング店は、葛藤を抱えながら4カ月後に店を再開。そして1年、以前の伊豆山にはまだ戻っていないと話します。
伊豆山地区にたった一つのクリーニング店
熱海市伊豆山の逢初橋の近く。国道沿いにあるお店。午前8時、開店。伊豆山地区にたった一つのクリーニング店です。 岡本政夫さん(70)と妻の尚子さん(69)。尚子さんの親の代から72年続く老舗です。取り扱うのは、熱海市内の旅館のタオルや浴衣、それに伊豆山地区の住民の服など、さまざまです。政夫さんは配達に。尚子さんは、その支度を整えたり、伝票を書いたり…。忙しい毎日を送っています。 国道を埋め尽くす土砂。店の中にも流れ込み、商売道具が使い物にならなくなりました。 岡本尚子さん:「目の前真っ暗でしたよ。どうしようと思って。泥が入った瞬間に私、思ったんですけど、変な話、入ってここにぺたっと、こう座り込んで。いやあどうしよう。父から受け継いだお店が、こんな泥だらけになって。どうしたらいいんだろうって。自分たちの先のことを考えても、私たちに今何かやれっていったら、洗濯屋なら主人と2人でどうにか力を合わせて出来るけれども、それ以外のことは本当に一から始めなきゃならないから。どうにか、そういう補償制度とか、自分たちの保険とかで目途がついたならもう、それに向かってやっていこうって。もうそれだけでした」
預かっていたお客さんの服を市内の同業者が…
発災から6日。政夫さんが店の荷物を車に積み込んでいました。 岡本政夫さん:「もう一週間も過ぎちゃっているから、お客さんだってね、制服とかそういう物もどんどんもう届けてやらなくちゃならない。まだ復興していないのに、自分たちの仕事だけやって・・・ということも、批判も出ると思いますけど…」 向かったのは、熱海市内の同業者のところ。発災当時、預かっていた数十着のお客さんの服を、仲間の店が代わりに預かってくれることになりました。 岡本政夫さん:「この帽子はこういう感じで仕上げてもらいたい」 同業者:「とにかく、うちでできることはもう、すべて協力しますから」 岡本政夫さん:「申し訳ありません。甘えさせてもらいます」 同業者:「我々からすれば、早く岡本さんが、元の仕事にちゃんと戻って、できるように」 岡本政夫さん「お客さん(のおかげ)で、私たちはこうやって生活もできているし。そういう意味でお客さんはやっぱり、災害時に励ましの言葉をかけてくれたし。その言葉に返すつもりで、また頑張ってやりたいと思います。」 少しずつ、着実に。一歩ずつ一歩ずつ…。発災1カ月。店内の土砂はかき出しましたが、再開のめどは立ちませんでした。 岡本尚子さん:「これでどのくらい市から(支援金が)出るんですかって聞いたら、準半壊に至らずで瓦一枚飛んだのと同じ程度ですから、1円も出ませんって言われました。本当どうしようって頭の中が真っ白で、どうやって帰ったかもよく覚えてないもん」