衆院選での各党経済政策比較:日本経済の将来像と中長期的な改革・戦略の具体策を国民に
目指すべきは構造的賃上げ
労働者の生活水準は、名目の賃金の水準で決まるのではなく、物価水準との比較、つまり実質賃金で決まる。この点から、将来の物価動向が予見できない中、最低賃金の名目水準に政府目標を設定するのは適切でないように思われる。この先、物価上昇率が高まらない中で、急速に最低賃金を引き上げていけば、最低賃金近傍で働く人の実質賃金は急速に高まるが、一方で、最低賃金近傍での賃金水準で働く人を多く雇用する企業では、人件費が急速に高まり、企業収益が圧迫され、経営破綻に追い込まれる、また雇用の削減を余儀なくされる可能性がでてくる。この点から、経済が不安定になる恐れがある。最低賃金は物価動向や平均的な賃金動向を踏まえて決定されるものであり、それらから独立した目標とされるものではない。 政府は、最低賃金の引き上げを目指すのではなく、実質賃金が上昇する経済環境を作り出すことを目指すべきだ。それが、岸田前政権が掲げた「構造的賃上げ」の実現である。そのためには、労働市場改革などを通じた労働生産性向上が欠かせない。 自民党の公約では、リスキリング、ジョブ型雇用の促進、労働移動の円滑化からなる労働市場改革が掲げられている。これは、岸田政権の「三位一体の労働市場改革」を継承したものであり適切だ。
消費税及び税制の見直し
経済政策では、消費税の見直しが大きな争点の一つとなっている。野党は消費税率の引き下げや廃止を通じて個人消費の喚起を主張しているが、減税を通じた個人消費の喚起は一時的な効果しか生まない。他方で、それが財政環境の一段の悪化を生じさせれば、将来の負担増加が中長期の成長期待を低下させ、企業の設備投資に悪影響を与えるなど、経済の潜在力を低下させてしまう。こうした点から、安易に消費税の減税や廃止を掲げるべきではない。 自民党はその公約で、消費税の見直しに言及していない。石破首相は、社会保障の安定的な財源確保が損なわれるとして、消費税の減税に反対する一方、将来的な増税には含みを残す説明をしている。これは財政健全化の観点から責任ある態度だろう。 日本維新の会は、消費税を8%まで引き下げ、軽減税率制度を廃止することを主張する。また、所得税・法人税の減税も掲げている。 共産党は、消費税の廃止をめざし、当面税率を5%に引き下げるとする。また、インボイス制度も廃止するとしている。さらに、大企業の内部留保に時限的に課税し、10兆円規模の財源を確保するとする。 国民民主党は、賃金上昇率が物価+2%に達するまで消費税5%に減税する一方、インボイス制度は廃止するとしている。 れいわ新選組は、消費税を廃止し、インボイス制度の導入も撤回するとしている。また、法人税の累進化、所得税の累進強化、金融資産課税などの導入を進めるとする。 社民党は、大企業の内部留保に4%課税することと、消費税率を3年間ゼロにすることを主張している。参政党も消費減税を掲げる。 既に見たように、立憲民主党は各野党が掲げる消費税の減税や廃止には反対する一方、「給付付き税額控除」の導入を掲げている。しかし、その財源については明らかではなく、財政環境を一段と悪化させてしまう恐れがある。また公明党の石井代表は、給付付き税額控除を行えば、食料品の税率を8%から10%に上げることになり、国民の痛税感がさらに増す、と立憲民主党を批判する。