道長のまひろへの想いが溢れ出た瞬間に鳥肌…ラスト1話で大河ドラマ『光る君へ』が届けたいこととは? 第47話考察レビュー
まひろを必要としている人々
まひろは自分が思う以上に、たくさんの人から大事に思われている。朝廷にも攻撃による被害状況が伝わり、まひろを心配していた道長(柄本佑)。「先頃、まだ太宰府にいると文がありました」と賢子(南沙良)を通じてまひろの無事を確認した時の表情が実に印象的だ。 これまで何度も緊張感のある場を経験してきた道長だが、そのとき以上に心から安堵した表情は見たことがない。民のことはもちろんだが、道長にとっては何よりもまひろが大事なのだ。 彰子(見上愛)は帰ってきたまひろに、太宰府で起きたことをいつか物語にして読ませてほしい、旅の疲れを癒したら再び女房として自分に仕えてほしいと頼む。彼女はまひろに何があったのかを知っているわけではない。 だが、喜んで旅立ったはずのまひろが暗く沈んだ表情をしているのを見て、なんとなく辛いことがあったのを察したのだろう。その上で、まひろをこの世に引き留めておくための役目を与えたのではないだろうか。 自分の役目は全て果たし終えたと思っていたまひろ。だけど、まだまだ彼女を必要としている人間はたくさんいることを実感し、そのことを身をもって教えてくれたとも言える周明が微笑んでいる姿が目に映るかのようだった。
現代人が今まさに抱えている問題
一方、朝廷では、刀伊を撃退した隆家たちへの褒賞を巡って実資(秋山竜次)が他の公卿たちと対立。朝廷が追討を命じる前に動いた彼らへの褒章は無用との判断を下す公卿たちに、実資は「都であぐらをかいていた我らが、命を懸けた彼らの働きを軽んじるなぞあってはならぬ!」と強く訴えかける。 これまでも実資の言動はたびたび視聴者に賞賛されてきたが、いついかなる時も政治家としての矜持を失わないその姿勢には頭が下がる思いだ。 そんな実資を道長も信頼しているが、「以前、隆家殿は朝廷も武力を持たねば、やっていけぬようになると申しておりましたが、まことにそうやもしれぬ」という彼の言葉には「武力に頼る世になってはならん!」と強く反論する。 それには同意した上で、「平将門の乱以降、朝廷は軍を持たなくなりました。それから80年がたち、まさかこうして、異国の賊に襲われることになろうとは。もはや、前例にこだわっておっては、政はできぬと存じました」と語る実資。 朝廷が武力を持てば、それがいつか争いの火種になる可能性はある。しかしながら、もしも今回のような出来事が都で起きたら、武力を持たない朝廷は為す術もなく敵に敗れるかもしれない。それは、我々現代人が今まさに抱えている問題だ。 この約150年後、自分たちの子孫が起こした皇位継承をめぐる争いをきっかけに戦乱の世が訪れるとは、まさか道長も思ってみないだろう。いつの時代も、私たちは戦争と隣り合わせの日常を送っていて、争いの火種はどこに隠れているかわからない。 本作は、平和な世にあって、そのことを実感したまひろと道長が戦争というものに立ち向かった物語とも言える。次週、最終回を迎える『光る君へ』。最後に、この物語は私たちにどのようなメッセージを残してくれるだろうか 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子