不稔もたらす「イネカメムシ」再拡大 多品種栽培で餌が長期間水田に 産地は防除へ手探り
1970年代以降、被害が下火だった水稲の害虫・イネカメムシの発生地域が再拡大している。斑点米カメムシ類の一種だが、不稔(ふねん)をもたらし、収量を落とす。農研機構は、大規模化で作期を分散して多品種を栽培する経営が増えたことが一因と分析。餌となる幼穂が長期間、水田に存在することになるためだ。対応する農薬はあるが、長年発生しておらず、産地は手探りで防除する。(石川大輔) 【画像】被害に遭い不稔が発生した稲
関西以西で被害増加
一般的な斑点米カメムシ類は、もみを吸汁して黒い斑点を残し、品質を下げる。一方、イネカメムシは幼いもみの基部や基部の茎を狙うため、もみが成長しなくなり、不稔による減収が起きやすい。かつては主要害虫だったが、70年代後半以降は目立った被害報告がなく、あまり注目されなくなっていた。 だが、農研機構によると、近年、関東、東海、近畿、中国地方などで発生が増加。特にここ2、3年は被害報告が目立つという。 2021年に斑点米カメムシ類の注意報を出した13県のうち、岐阜、愛知、山口の各県がイネカメムシを名指しした。兵庫県病害虫防除所は11月末に病害虫発生予察技術情報を出し、来作に向けた防除対策を呼び掛けた。
生態になお不明点
農研機構の石島力上級研究員は、水稲経営の規模拡大に伴って早生から晩生まで多品種が栽培され、餌となる幼穂が長く存在するようになったことが要因とみる。育苗箱処理剤が普及し、本田での農薬散布が減ったことも一因に挙げる。 20年にイネカメムシの集中的な被害が確認された広島県JA尾道市管内。JA営農販売課は「草姿はしっかりしているのに子実が実らない。こんな被害は見たことがなかった」と説明する。被害地域では早生、中生、晩生の品種が栽培され、発生しやすい条件がそろっていたとみられる。 一般的な斑点米カメムシ類用の農薬が効くが、長期間発生が少なかったため、石島上級研究員は「どの薬剤をどの時期にまくかなど調べることは多い」と指摘する。他の斑点米カメムシ類と異なり、水田に飛び込む前に潜んでいる場所が分からないなど、生態に不明な点があるという。 21年産でJA尾道市は、前年に被害のひどかった集落で品種を統一し、一斉防除を展開。発生を抑え込めた。山口県農林総合技術センターは、出穂期とその8日後の2回の薬剤散布が有効と明らかにした。ただ、どちらも防除体系の確立にはまだ検証が必要だ。
日本農業新聞