AARかVARか?どうなるJリーグ審判誤審の防止対策
相樂副審と大坪第4審も同じく状況がわからず、この時点ではマリノスに2点目が入った、という事実だけが共有された。直後に相樂副審から「運営に聞けば得点者がわかるのでは」と打診された、大坪第4審が「得点者は仲川」という情報を入手。相樂副審を介して松尾主審へ伝えられた。 仲川がオフサイドポジションにいたことは田尻副審も把握していたため、一転してゴールは取り消された。しかし、審判団が情報を第三者、ここでは運営から得ることは競技規則に違反する。相樂副審が追って真相を伝え、松尾主審も再びゴールを認めざるを得ないと判断した。 こうした経緯を松尾主審はマリノスのアンジェ・ポステコグルー、レッズの大槻毅両監督を呼んで伝達。続いて選手たちにも謝罪しながら説明したが、このときに用いられた「運営」という言葉のインパクトが強かった分だけ独り歩きしてしまい、松尾主審が「自分では決められない。最後は運営が決めている」と言ったという誤解を生んでしまった。 審判団の判定を補助する制度は、現時点でゴールライン・テクノロジー(GLT)と追加副審(AAR)、そしてビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の3種類しか認められていない。Jリーグではいずれも導入されていないため判定はすべて目視に委ねられる。ゆえに一時的にせよ外部情報を得てしまった相樂副審と大坪第4審には、より厳しい「資格停止」が科された。 前回5月の誤審を受けて、審判委員会の小川佳実委員長は早ければ8月からAARを導入したいと話していた。通常は4人で構成される審判団に2人を追加し、両方のゴールライン付近に配置。ゴールか否かの見極めや、ペナルティーエリア内で発生するさまざまな事象に対する判定の精度を向上させる制度だが、その後も検討が重ねられたなかで現時点では白紙になっている。小川委員長が言う。 「Jリーグとも話し合いをしてきたなかで、公平性と公正性を考えたときに、シーズンの途中で方法を変えることがいいのかどうか、J1だけで導入するのがいいのかどうかを考えると、現時点で導入する判断はできない、という状況です」 しかし、5月の誤審とも共通していることだが、プレーのスピードが桁違いに増している現代サッカーにおいては、審判団の目視にもおのずと限界が訪れる。次節でも同様の事象が起こりうるかもしれない状況を考えれば、判定を補助する制度の導入はもはや不可避となっている。