日本独特の「取次」が経営する本のホテルと“喫茶店”
染谷:「文喫」のプロジェクトは、日販グループが静岡市に持っている古いビルの活用が発端でした。それでスープストックトーキョーに出店のご相談をしたのがきっかけです。 遠山さんは三菱商事の社内ベンチャーとしてスープストックトーキョーを営む「スマイルズ」を設立された後、08年にMBOでその全株式を取得し、独立されています。スマイルズの出資事業の1つに、銀座の「森岡書店」(※)という極めてユニークな書店もありますね。伝手(つて)があったのでしょうか。 ※「森岡書店」:同書店オーナーの森岡督行さんが銀座で運営する「一冊の本を売る書店」。ここでは森岡さんが1週間ごとに選書した1冊を販売するという、ラジカルな販売方法が内外で話題を呼んでいる。 染谷:いえ、私たちに伝手は何もなくて、最初は定型通りに、スマイルズのHPのコンタクトフォームからご連絡したんです。それこそ、うちのビルに「スープストックトーキョーの新業態で入居していただけませんか」みたいなご相談です。でも、それにはお返事がなくて、これは、やはりちょっと違うやり方にしなければ関心を持っていただけないな、と思って次はお手紙を差し上げました。 今村翔吾さんが佐藤可士和さんに出したみたいに? (「佐藤可士和を電光石火で動かした作家・今村翔吾の『手紙』」) 染谷:そうなんです。今村先生と同じように直筆で書きました。 今村さんと同じく13枚? 染谷:13枚はいかなくて、3枚ぐらいでした(笑)。そうしたら、「相談に乗ります」というお返事をいただけたのです。話はちょっとずれますが、箱根本箱では谷川俊太郎さんにオリジナルの詩を書いていただいています。それもお手紙でお願いして実現したものです。ここぞという時は、直筆、アナログが結構大事なんだな、と実感しています。 ●37歳が引っ張る取次の新業態 未来のユーザー物語を記す企画書と、直筆ラブレター作戦という、ビジネスに効きそうな染谷流を教えていただきました。あの、ここで、染谷さんの年齢を伺ってもよろしいですか。 染谷:私は1987年生まれで、今、37歳です。 あ、お若い。まだ40歳にいかない方が、こうやって事業の中心的な役割を担っているのですね。今村さんも今年40歳で、同年代ですね。 染谷:「ひらく」もだいたい、私と同じか、若い世代のメンバーが多いです。 そうなんですね。ちなみに染谷さんは、学校では何を勉強されたんですか。 染谷:大学は外国語学部の英語学科でしたが、その手前に、もともと本、音楽、映画が大好きで、そのようなカルチャーにどっぷり浸かっていた時間がありました。特に音楽が好きで、ずっとバンド活動もしていたんです。何しろ英語学科に進んだのも、外国の歌を歌詞カードなしでも分かるようになりたいという動機だったので。 その延長で、本に関わる会社に入社されたということですか。 染谷:就活の時、日販が掲げていたキャッチフレーズが「本を中心とした文化の総合商社です」みたいなものだったんです。私はよく分からないまま、「そうか、文化の総合商社か」と思い込んで、入社した後に、「あれ? 物流会社じゃん」と、ちょっとショックを受けて(笑)。 染谷さんのその学生的な認識は、世間の認識とほぼ重なるんじゃないかと思います。 染谷:確かに文化の総合商社ではあるのですが、実際は毎日、汗をかきながら物流的にも商流的にも本を全国に送る、という仕事です。 どの仕事も、現実は泥臭いものですが、自分が描いていたイメージとの落差に直面して、だったら自分はこういうところを開拓しようとか、そういうことがあったんですか。