「森に働く馬の姿を」、C.W.ニコル氏が託した思い
2020年11月に黒姫のアファンの森で、信濃町ホースプロジェクト推進協議会が主催する「ホースロギング視察体験モニターツアー」が開催された。ホースロギングとは、伐った木を、馬で搬出する作業のこと。昭和中期までは日本各地で行われていたが今はほぼ廃れている。しかし、林業機械よりも効率面で劣るものの、小回りが利き、作業道を作る必要がなく、山の土壌を踏み固めたり、立木を傷つけたりすることがないため最近見直されてきた。
美しさと豊かさを取り戻した「アファンの森」
信濃町ホースプロジェクト推進協議会では、C.W.ニコル・アファンの森財団が、2015年から取り組んでいるアファン・ホースプロジェクトを中核とし、地域の住民と連携し、馬を活用した魅力ある事業で森林利用の多角化を目指している。「アファンの森」とは、今さら説明するまでもないが、2020年4月に他界された作家のC.W.ニコル氏が、1986年から黒姫の自宅周辺の荒廃した森林を少しずつ買い取り、もとの生態系に戻してきた森だ。2019年3月31日現在で 約34.3haの広さがある。35年の歳月と労力かけ荒廃していた森林は、かつての美しさと豊かさを取り戻している。ニコル氏の故国ウェールズでは、石炭の採掘のため失われた森が人々の手によってよみがえった例があった。その森は現在、アファン森林公園(Afan Forest Park)という名の国立公園になっている。「アファン」とはケルトの言葉で「風の通るところ(谷)」という意味。ニコル氏はウェールズのアファンの森活動に勇気づけられ、黒姫の森をアファンの森と名付けた。
2日間のホースロギング視察体験ツアー
アファンの森は、今まで森を守り育てることを主眼に置いて活動を続けてきたが、今後は復活した森をどう活かしていくかを考えている。その一つの取り組みがホースプロジェクトだ。かつての日本の里山では馬が田畑を耕し、山から伐った木を運び出すなど馬が人間のよきパートナーとなっていた。ニコル氏の「森にもう一度働く馬の姿を取り戻したい」という思いから、2015年に厩舎を整備し、雪丸・茶々丸という2頭の道産子馬を迎え入れ、森の仕事に慣れるようトレーニングを続けている。今回のモニターツアーは、馬搬や馬とのふれあいを体験し、今後、どのような取り組みをしていったらいいかを主催者と参加者が一緒に考えることが目的の一つだった。体験ツアー初日の午前中はアファンセンターで座学、昼食後にアファンの森を案内していただき、その後、雪丸による丸太の搬出作業と簡易製材機による製材作業を見学した。翌日は、午前中にホースロッジ(厩舎)を訪れ、茶々丸による鞍なしで馬に乗る体験。そして昼食後に信濃町 癒しの森で森林セラピー体験を行い、童話の森ギャラリーで開催されていた「C.W.ニコル追悼展」を見学する盛りだくさんな内容だった。