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春のセンバツ 無観客でも開催にこだわる背景は?

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ニッポン放送

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、3月11日に無観客開催か中止かが決まる予定の「春の選抜高校野球」に関して、主催者側が無観客でもあえて開催に踏み切ろうとしている背景について取り上げる。

「開催を中止にするのは最も簡単な選択。何とか、球児たちの甲子園でプレーをしたいという熱い思いに応えるために、あと1週間努力を続けたい」(4日、高野連・八田英二会長) 「春のセンバツは開催すべきか、否か?」……世論も割れているこの問題。 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本高等学校野球連盟(高野連)は4日に運営委員会と臨時理事会を開き、19日に開幕予定の第92回選抜高校野球大会について「大会を無観客で開催する方向で準備を進める」と決定。無観客開催か中止かは、感染拡大の状況や政府の対応などもふまえ、11日の臨時運営委員会で判断する、としました。 この発表に対しては、賛否が分かれました。「球児たちの夢を取り上げるのはかわいそう」という意見がある一方で、「なぜ高校野球だけ強行するのか?」という疑問の声も。 スポーツ各紙も、この件で読者にアンケートを取っています。日刊スポーツは「中止すべき」が47%、「無観客開催に賛成」が43%。スポーツ報知は「開催自体に反対」が59%、「無観客賛成」が36%。他社のアンケート結果を見ても、世論は反対意見のほうが多いようですが、「無観客でも、できるならやってほしい」という声も4割前後あるのは見逃せません。 反対意見のなかで多いのは「他の高校全国大会が中止になっているいま、野球だけ開催するのは不公平」というものです。なぜ野球だけが特別なのか?……もっともな意見ですが、開催の是非はひとまず置いて、大会の規模で考えると、高校野球は他の高校スポーツと比べて“突出した存在”であることは確かです。 そもそも、春・夏の全国大会がNHKで全試合生中継され、主催者以外のスポーツマスコミも結果を大きく報じる……そんな高校スポーツは、野球だけです。 観客数も他競技を圧倒しており、昨年(2019年)の春の選抜大会の収支決算報告を見ると、入場料収入は3億2828万1435円。これにグッズ売上げなども加わり、収入は約3.3億円にも達します。(ちなみに、NHKから放映権料は取っていません。) 大会の運営費はこの収入で賄っていますが、昨年の大会で掛かった経費は2億4148万8313円。差し引き1億円近い“剰余金”が発生しました。この剰余金はプールされ、高校野球の振興などに使われます。高校野球は財務面でも、他の高校スポーツを超えた巨大なスケールで運営されているのです。 今回、大会を無観客で開催すると、3億円を超える入場料収入は一切入って来ませんが、剰余金(前回以前のプール分もあります)を回せば、運営費は何とか賄える。ならば、諸状況に最大限配慮した上で、球児たちに野球をやらせてあげたい……と考えるのは、高野連の立場からすると自然なことでしょう。 もちろん、開催するからには、選手の安全を図ることが大前提です。大会行事に関しては、19日に予定されていた開会式をはじめ、12日の監督会議とキャプテントーク、15~16日の甲子園練習……これらはすべて中止となりました。 例年、監督・主将らが集まって対戦相手を決める13日の抽選会も、今回は主催者による代理抽選となります。さらにスタンドは無観客。高野連は選手・関係者への感染を防ぐため、打てる手はすべて打つ、という姿勢を示しました。 ここで、もう1つの疑問が湧いて来ます。いくら球児のためとはいえ、なぜ主催者側はそこまでして、大会開催にこだわっているのでしょうか? 以下は私見ですが、その理由は「春の選抜を中止した場合、スポーツ界全体に与える影響が甚大なものになる」からでしょう。 まず直撃を食らうのは、9日に開幕延期を決めたプロ野球です。春の選抜が中止になった場合、「野球なんかやってる場合か」「高校球児が我慢したんだから、プロもこらえろ」というムードになりかねず、そうなるとプロ野球界にとっては死活問題です。 試合を報道するスポーツマスコミも同様で、表立っては言わないものの、現場の本音は「センバツもプロ野球もなかったら、どうやって紙面(番組)を作ればいいんだ?」でしょう。 また、影響が及ぶのは、野球界だけではありません。真っ先に延期を決めたJリーグをはじめ、バスケットのBリーグ、ラグビートップリーグ、無観客で春場所を開催中の大相撲……さらに東京オリンピック・パラリンピックも「本当に開催していいのか?」というムードが強まるのは否めません。それは政府としても避けたい事態でしょう。 「どこかでこの“自粛ドミノ”に歯止めを掛けないと、日本のスポーツ界全体が沈没する」という危機感は相当なものがありますが、国民のほとんどが痛みを感じているこのご時世、大会を強行するにはそれなりの“大義名分”が必要です。 その点、高校野球はそもそも営利目的ではありませんし、今回の春の選抜には、21世紀枠・福島県立磐城高校のように、水害で被災した地域でのボランティア活動が評価され代表に選ばれた高校も出場します。 2011年、東日本大震災発生の直後にも春の選抜は開催されましたが、当時「こんなときに野球か!」と非難する声もある一方で、懸命に戦う球児たちの姿を観て「勇気づけられた」という被災者からの声があったのも、また事実です。今回は9年前とはまた状況が違いますが、105年の歴史を持つ高校野球には、やはりそれだけの力があるのです。 大人の打算だけで開催を強行するなら私も反対ですが、球児の安全に最大限留意した上で、スポーツ界、ひいては沈滞ムードの日本社会に活力を与える目的での開催なら、それは頭から否定することではないと思います。 いずれにせよ、高校スポーツ大会の枠を超えた判断が求められる11日、果たして主催者側がどんな判断を下すのか、各界の熱い視線が注がれているのです。

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