吉田麻也は”当確”? 競争原理を排除したザックJ
その一方で常連の前田遼一(ジュビロ磐田)とハーフナー・マイク(フィテッセ)が外れて柿谷、豊田陽平(サガン鳥栖)に代わって大迫勇也(鹿島アントラーズ)の2人が招集されたワントップは一気に激戦区となり、生き残りをかけた緊張感が高まった。 だが、本来は、課題のDFにおいても競争原理を働かすべきではなかったか。特に2011年1月のアジアカップからほぼ固定されてきたセンターバックに新戦力を試す機会は、FIFAランクが93位で、すでにW杯北中米カリブ海予選で敗退し、チーム編成を大幅に変えたグアテマラ代表戦こそが絶好の舞台だったはずだ。 森重について、ザッケローニ監督は、以前から高い評価を与えている。 「ディフェンスラインのどこでもできるし、ボランチもこなせる。ビルドアップもできるし、しっかり守れるし、空中戦にも強い。そういう特徴を生かして、パーソナリティーの部分でより成長してほしい」 1対1や空中戦における強さと足元の技術の高さという部分で、森重と吉田の特徴はかぶる。外国人特有の長いリーチなどへの慣れという部分では、吉田に一日の長があると言わざるを得ないが、スピードとリスクマネジメントを絶えず継続できる集中力の部分では森重に軍配が上がる。 ザッケローニ監督は攻撃につながる守備を求め、最終ラインを高く保つことを要求する。背後を突かれるリスクは高まるが、センターバックにスピードがあれば、そのリスクは軽減させられる。森重もその点については自信を持つ。 「最後尾にはキーパーがいるので、キーパーと連携しながら、怖がることなくラインを上げていきたい。球際や1対1で負けないこともそうですけど、要は試合に出なければ何とも言えないので」 ウルグアイ戦では最後までベンチを温めた。MF本田圭佑(CSKAモスクワ)や香川、FW岡崎慎司(マインツ)、長友、DF内田篤人(シャルケ)ら、2008年の北京五輪でともに戦った。遅れて注目を浴びることになった北京組である。 「チャンスはあってもいいかな、と思っている。自分はスタートラインに立ったばかり。これからどうなるかは自分次第。高い目標とモチベーションとを持ってやっていきたい」 森重にチャンスが与えられるべきである。 しかし、ザッケローニ監督は競争よりもチーム内における序列を優先させた。指揮官は、来年6月のW杯ブラジル大会へ向けたプランの一部をこう明かしたことがある。 「大きな部分は、年内に固まってくる」 大きな部分とは、イコール、軸になる選手である。9月の2連戦で優先的に起用される吉田、香川、長谷部の3人は、事実上の「W杯代表」に指名されたと言っていい。 所属チームで出場機会を失うことは自己責任であり、本来ならば代表戦でブランクを補うべきではないと私は思う。チーム内にアンタッチャブルな存在を作るには、あまりにも時期尚早ではないか。失点の連鎖が止まらない最終ラインにおいては、なおさら選手同士を切磋琢磨させて、刺激を与えることで成長を促すことが必要なのではないか。 年代別の代表でともにプレーしたことのある森重の印象を、吉田は畏敬の念を込めながらこう語る。 「森重君の身体能力の高さは誰でも知っていることだし、今代表に選ばれたからといって特別驚くことではない。Jリーグで外人相手にも屈することなく戦っているのは前から見ているので、その意味では上手さと強さを兼ね備えていると思う」 グアテマラ戦で森重が特徴を存分に発揮すれば、吉田や今野の危機感を煽り、お互いがお互いを高め合う絶好の環境がチーム内に生まれたはずだ。 香川と同じ2列目の左を主戦場にするFW齋藤学(横浜F・マリノス)や、長谷部と役割がかぶるMF山口螢(セレッソ大阪)のケースも然り。長く主力を務めた選手の試合勘を取り戻させる、という異例の起用理由がチーム内にようやく芽生えてきた競争原理をスポイルしてしまえば……これ以上のデメリットはない。 (文責・藤江直人/論スポ)