「防衛力強化」の是非が沖縄の争点に浮上へ~「戦場化」への懸念を背景に
2022年末の安全保障関連3文書の改定を受けて、南西諸島の「防衛力強化」が急速に進む中、沖縄では自衛隊と「有事」への備えを巡る諸問題が、「辺野古」の次の争点として浮上しつつある。 (那覇支局 佐藤拓)
■一歩踏み出した知事
「子どもたちの未来が戦争の未来であってはならない。不穏な未来であってはならない」 2023年11月、那覇市の公園で開かれた「県民平和大集会」で、来賓として挨拶した沖縄県の玉城デニー知事は、慎重に言葉を選びながらも、「沖縄を再び戦場にさせない」という集会の趣旨にそったスピーチで、会場から大きな拍手と声援を受けた。 沖縄では長年、米軍基地や沖縄戦の記述を巡る教科書の問題などに抗議するため、政党や労組の主導で数万人規模の「県民大会」が繰り返し開かれてきた。 ただ今回の集会は「県民大会」とは異なり、市民団体や趣旨に賛同する個人が手づくりで準備したもので、参加者は主催者発表で1万人だった。 この規模の集会に知事が出席して挨拶するのは異例で、日米安保体制や自衛隊の存在を基本的に容認する玉城知事が、いわゆる「反撃能力」の保有を含む「防衛力強化」には批判的な姿勢で臨むことを、県民に強く印象づける形になった。
■県民感情との“ズレ”広がる
ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区の惨状が伝えられるほど、沖縄ではせい惨な地上戦となった沖縄戦の記憶が呼び起こされ、県民の平和志向と反戦感情を強めている。 一方、東アジアの安全保障環境はいっそう厳しさを増しているとして、政府は沖縄県内の離島を中心に、ここ数年、自衛隊基地の新設や機能の強化を進める。
陸上自衛隊は2016年の与那国駐屯地、2019年の宮古島駐屯地に続き、2023年には石垣駐屯地を開設した。宮古島と石垣島には地対艦と地対空のミサイル部隊が配備され、当初は沿岸監視隊が中心だった与那国駐屯地にも今後、電子戦部隊とミサイル部隊を追加配備する方針だ。 防衛省は、「反撃能力」の保有に向けて現在開発している国産の「スタンド・オフ・ミサイル」を、予定より1年前倒しして、2025年度に配備する計画を公表した。具体的な配備先はまだ明らかにされていないが、やがて沖縄にも配備され、いわゆる「台湾有事」で攻撃目標にされるリスクが高まるのではないかとの懸念が、住民の間に広がっている。