やめたと言っていたのに新エンジンを開発! メルセデスの次世代パワートレイン戦略を読み解く
直4ターボのM252ユニットを新開発
バッテリーには2種類のリチウムイオンを用意。エントリークラスのモデルとなるため、価格を抑える(=航続距離が短くなる)ための施策とのこと。ひとつは負極に酸化ケイ素を使った85kWh、もうひとつは58kWhの容量となる予定。さらにメルセデスとしてはこのMMAで初めて800Vの電気アーキテクチャーを投入、新しいバッテリーと組み合わせることで充電器次第では最大300km分の充電を10分以内で完了させるという。 そしてやっぱり気になるのが“内燃機”である。「新規のエンジンはつくらない」と公言していたくせに、ふたを開けてみればまったく新しいエンジンのみならずトランスミッションまで開発していて、そのうえハイブリッドであった。 1.5リッター直列4気筒ターボは“M252”の型式番号を持つ新規開発のエンジンで、ミラーサイクルの燃焼プロセスを採用。したがって12:1という高圧縮比を実現している。ターボはメルセデスが最近一部のモデルに使っている電動式ではなく通常のもの。「あまりコストがかけられないので……」と電動ターボが採用できなかった理由をエンジニアは吐露した。 トランスミッションは8段のDCTで、出力20kWのモーターとインバーターも同じハウジング内に収めている。モーターはエンジンとトランスミッションに挟まれる位置にあるが、エンジン側にクラッチが設けられているのでEV走行が可能となる。つまり、EV走行時でも8段DCTは使えるし回生もするという。ただ、EVでの航続距離はPHEVとして登場しなければおそらくたいしたことはないと思われる(数値は教えてもらえなかった)。
とにかくコンパクトに
このエンジンを開発するにあたり、最優先事項だったのがコンパクトであることだったそうだ。そりゃそうだろう。BEVを想定したパッケージのフロント部にエンジンを収める必要が出てきたのだから。そうなると、3気筒でもよかったのではないかという疑問が湧く。これに対してエンジニアは「もちろん3気筒も検討しました。でもやっぱり音と振動(NV)がわれわれの期待値を上回らない。プレミアムブランドであるメルセデスにふさわしいNVを確保するには4気筒のほうが最適だったのです」とのこと。それでも吸排気系の取り回しに知恵を絞るなどして、4気筒にしてはコンパクトなサイズに仕上がっている。 当面は100kW、120kW、140kWの3つの最高出力を用意し、横置きの前輪駆動が基本となる。4MATICもあるが、リアにモーターを置く電動4駆ではなく、プロペラシャフトを使った機械式4駆の駆動形式となる。 この新しいエンジンとトランスミッションを見るに、とてもじゃないがこの1~2年の間に急きょ開発したものではないことは容易に想像がつく。「新規のエンジン開発はやらない」と言っていたのにしっかりやってたんじゃんとツッコミたくはなったけれど、こういうしたたかさというか、開発の余力をきちんと確保しているあたりはさすがである。 (文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
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