世代交代に再び挑む錦織の2016年
フレッシュな精神を失わない偉大な王者たちがひしめく中で、トップ10の中で最年少の26歳の錦織は新勢力の旗頭として、停滞した世代交代の流れを再び進めていくことができるだろうか。2年連続ツアーファイナル出場を果たした26歳に対して「新勢力」という呼び方は失礼かもしれないが、目標とする「グランドスラムやマスターズなど大きな大会での初優勝」のため、旧勢力に割り込んでいくという意味での「新勢力」である。 一昨年には全米とマドリード・マスターズで準優勝した錦織も、昨年のグランドスラムは全豪と全仏でのベスト8、マスターズシリーズでは2度のベスト4が最高だった。ブレークした翌年というのは難しい。あのフェデラーでさえ、19歳のときのウィンブルドンでピート・サンプラスのV5を阻んでベスト8に進出した翌年のウィンブルドンでは1回戦で不覚をとった。 ランキングシステム上、前年に活躍した時期にはどうしてもプレッシャーがかかる。そこへきて、下からは野心むき出しで向かってこられ、上からはより丹念に対策を講じられるという状況は、覚悟していたこととはいえ厳しかった。プレッシャーとうまくつき合える感性を持った錦織ではあるが、一昨年の全米以降の大活躍と昨年の同時期の失速を照らし合わせれば、精神的な原因があったと推測するのが自然だ。
ならば今年は…と期待するのもまた自然で、昨シーズンを締めくくるツアーファイナルで久々に見せた錦織「らしさ」がその期待をさらに膨らませる。特に、フェデラーとの最後の一戦での躍動感あふれるプレーが本当にスランプからの脱却を意味していたのか、それを証明するのはこれからだ。 下からの突き上げはより激しくなるだろう。今シーズンは、クロアチアの19歳ボルナ・チョリッチや20歳のニック・キリオスなど〈ニューウェーブ〉と呼ばれる不気味な世代の躍進が大いに注目されている。その中で、錦織の立ち位置は去年と大きく変わらないかもしれないが、昨年までとは違う、どんな新しいことにチャレンジするのか楽しみだ。 「去年はいいシーズンだったと思っている。ただ、グランドスラムやマスターズではもう少しできたはず。あらゆることを少しずつでも向上させることで、結果は大きく変わる」 英語のインタビューでそう語った錦織は、こんな発言もしている。 「ノバクを倒すことはとても大事になる」 実際、テニス界全体の最大の関心事がこの「打倒ジョコビッチ」である。誰がジョコビッチを倒すのか、その候補の一人として錦織が存在感を増すことを願う。 「もう一度彼に勝つ自分をイメージすることはできる」。そのイメージこそが今年にかける意気込み、そして自信だろう。最初の大舞台、全豪オープンは今月18日に開幕する。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)