野木亜紀子/日本のドラマにもっと多様性を〈2021年 日本を動かす21人〉――文藝春秋特選記事【全文公開】
「文藝春秋」1月号(2020年12月10日発売)の特選記事を公開します。 ◆ 『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)で社会現象を巻き起こした脚本家の野木亜紀子(46)。デビューから10年となる今年、「レンタルおやじ」をする兄弟の日常をコミカルに描いた『コタキ兄弟と四苦八苦』、綾野剛と星野源がバディを組み事件を解決する『MIU404』、そして昭和の未解決事件をモチーフにした映画『罪の声』の3作を次々と世に送り出し、話題をさらった。いま次回作がもっとも期待されるヒットメーカーが、作り手として大切にしていることとは? ◆ ◆ ◆ この10年は怒濤で、一瞬で蒸発するように消えていきました。でもまだ10年なので、実はまだ超ぺーぺーなんですよ。 私は35歳と遅めのデビューで、脚本家になる前は一般企業で派遣社員をやっていて、その前の8年ほどはドキュメンタリーを作っていました。最初に入社したのはBSやNHKのドキュメンタリーを制作する会社で、下調べ、スケジューリング、現場での情報収集を手がけ、その後もディレクターとしてインタビュー取材をいくつもしました。 この経験はドラマを作るうえでも役立っていると思います。『アンナチュラル』(2018年)というオリジナルドラマを書くときの取材で、これまで見てきた法医学ドラマがドラマ上の「嘘」だったことを知ったんです。事件性のある司法解剖は本来、大学の法医学教室でしか扱わないのに監察医務院で行っていたりする。法医学教室ではひとつの案件に何日もかけるほどの余裕はない。 ドラマはフィクションですから、嘘があってもいいのですが、自分で作るなら、もう少し現実に即したいなということで、取材に基づいて「不自然死究明研究所」という架空の舞台を作りました。実はそういう機関を作ろうという動きが政府主導であったんですよ。立ち消えになりましたが。実際に働いている人のことを考えると、実在の組織の運用で嘘をつくよりも、架空の組織を舞台にしてリアルな法医学の現状を描くほうがいいと思いました。
本文:2,770文字
野木 亜紀子/文藝春秋 2021年1月号