ニーマイヤーから現在まで、ブラジル建築の90年を振り返る展覧会が開催中。
ブラジルの建築の歴史を紹介する『無限の空間:ブラジル建築の90年』展がサンパウロで開催中だ。同展は2018~19年にポルトガルの「建築の家(Casa de Arquitetura)」で行われた企画が巡回したもので、20世紀以降に活躍したブラジル人の建築家96人の代表的な作品とともに、近現代のブラジル建築を振り返る。独立から100周年の1922年にサンパウロで行われた「近代芸術週間」はブラジルでのモダニズムの幕開けとされており、本展もこれに倣い、1920年代を起点に現在までの約90年を俯瞰してブラジル建築の多様性を紹介している。 【展覧会詳細】「無限の空間:ブラジル建築の90年」展
展示は、近現代ブラジルの政治的局面を切り口に6セクションに分けられている。ユニークなのは、それぞれの時代にちなんだ大衆音楽の1フレーズを各セクションのタイトルに起用していることだ。軍政前の1943~57年のセクションにつけられたタイトル「A Base e uma So(ベースはひとつだけ)」は、ボサノバの名曲「ワンノートサンバ」からの引用。この時期はオスカー・ニーマイヤーによるパンプーリャ近代建築群からブラジリアのパイロット・プラン設計コンペまでにあたり、ブラジル建築がますます大胆になった時代だ。支柱が少なく、広い屋内空間を創造した当時の潮流を歌のフレーズに重ねた。
ブラジル建築において抜きん出た傑作は、1960年に完成された首都ブラジリアの建設だ。ルシオ・コスタの都市設計とオスカー・ニーマイヤーによる建築設計は、荒涼とした平野に十字の道路を敷くところから始まった。無から有を生み出す既成概念に捕らわれない自由な創造こそは、ブラジル建築の代表的な作品が備えている魅力だ。 展示は、今世紀以後のセクションで締めくくられているが、IMSパウリスタ館やイニョチン・アートセンターなど、近年の傑作を紹介するのみならず、悪化する一方の治安や、不動産投機と浮浪者組織による空きビルの占拠など、建築と無関係でない問題を鑑賞者に投じている。歴史を振り返るとともにますますカオス化するブラジル都市部の未来を考える上で、有意義な展示となっている。
写真・文:仁尾帯刀