映画『きみの色』をレビュー 山田尚子×吉田玲子の最強タッグが放つ、いい子のための処方箋! 反抗できないけど、自立したい…若者の心にギリギリまで迫る傑作が誕生!
映画『きみの色』をレビュー:『映画たまこラブストーリー』と『聲の形』の影響について
主人公・トツ子のキャラクター性についても、過去作の特徴が表れているように感じました。トツ子は純真無垢かつ天然ボケ、周りを巻き込む狂言回し的な特性を持つ人物と言えます。この純真無垢かつ天然ボケの要素は『けいおん!』の唯や、『たまこまーけっと』のたまこを想像させるところがあります。天然ボケキャラを描く上手さは、本作『きみの色』でも存分に発揮されていたように思え、山田監督の得意技の1つと言えそうです。 本作には淡い恋心の描写もありますが、この点は『映画たまこラブストーリー』と繋がる要素と考えられます。『映画たまこラブストーリー』では、もち蔵がたまこに想いを寄せている形でしたが、『きみの色』ではきみがルイに想いを寄せており、男女の役割は逆転している印象があります。 ただし『きみの色』のラスト、船に乗るルイを送り出すシーンは『映画たまこラブストーリー』のラスト、線路を挟んでもち蔵に声を掛けるたまこを思い起こさせるところがあります。船と電車という違いはあるものの、別れのシーンに恋愛を絡める展開は近しいものがあり、演出や構成の点で踏襲しているような印象を受けました。 また周囲に気を遣い過ぎて、生きづらさを抱える若者の心の機微を描くということについては『聲の形』の経験が生きているのではないかと推測されます。耳の不自由な少女・西宮と、彼女を小学生時代にいじめていた少年・石田の今にも壊れそうな精神状態を極めて丁寧に表現した1作です。 自己嫌悪や罪悪感、親や家族への気遣い、申し訳なさ、言いたいことが言えないもどかしさなど、生きづらい若者の心のヒダまで繊細に描く『聲の形』のスタイルは、本作の『きみの色』でも多分に生かされていたように思います。 このように過去作との関連性を見てみると、本作『きみの色』は山田尚子×吉田玲子のある種の到達点的な作品であり、集大成と言えるのではないでしょうか。 露悪に走らず、人の良心を信じて繊細に表現しながら、それでいてきちんとエンターテインメントになるというのは、考えてみれば非常に難しく挑戦的な行為です。2人の最強タッグが放つ優しいエンターテインメントが今後どのような進化を遂げるのか、ファンの1人として楽しみでなりません。
Fav-Log by ITmedia
【関連記事】
- 空前の「大ガールズバンド時代」が到来! 『ガールズバンドクライ』や『ぼっち・ざ・ろっく!』などバンドアニメはなぜこれほど人を惹き付けるのか?
- 『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:』を本気レビュー! なぜ「ぼざろ」は社会現象になったのか? セカイ系と“訂正する力”から見る「ぼざろ」が今に刺さる理由
- この作品からは誰も逃げられない『デットデットデーモンズデデデデストラクション 前章』をレビュー&考察 “シン・終わらない日常”の時代を生きる僕たちに突き刺さる大大大大傑作が誕生!
- “脳がバグる”と話題のTVアニメ『逃げ上手の若君』をレビュー 北条時行が理想の主君(上司)である4つの理由【アマプラおすすめアニメレビュー】
- 【アカデミー賞受賞作品】賛否両論の『君たちはどう生きるか』をレビュー&考察 “わけの分からなさ”に”豊かさ”があることを教えてくれる不思議な作品