映画『きみの色』をレビュー 山田尚子×吉田玲子の最強タッグが放つ、いい子のための処方箋! 反抗できないけど、自立したい…若者の心にギリギリまで迫る傑作が誕生!
映画『きみの色』をレビュー:『けいおん!』や『たまこまーけっと』など、山田尚子×吉田玲子のタッグ作品に見られる特徴
続いて『きみの色』を生み出した最強タッグ、山田尚子×吉田玲子の過去作との関連性や傾向を分析しようと思います。本作には2000年代に社会現象化した『けいおん!』と、その後に制作され劇場版も公開された『たまこまーけっと』の要素が多分に含まれているものと推測されます。 まず両作に共通するのが『映画けいおん!』『映画たまこラブストーリー』という形で、いずれもテレビシリーズだけでなく劇場版がセットで展開されている点です。そしてここで重要になるのが、テレビシリーズと劇場版は明らかに異なるスタンスで作られているということです。 テレビシリーズは2000年代の“終わらない日常”を象徴するように『けいおん!』では学生としての日常描写、『たまこまーけっと』では学園と商店街での日常描写をメインに扱い、日常の楽しさや豊かさが丹念に描かれています。一方で、劇場版では両作とも序盤は日常描写から始まりますが、中盤以降から非日常へ移行していく流れで構成されています。 『けいおん!』ならいつもの学校を飛び出して異国の地ロンドンを訪れ、帰国後は卒業という別れのイベントを経験し、日常から逸脱する中での成長物語が描かれます。『映画たまこラブストーリー』では、恋愛に興味の無かった主人公・たまこが、幼馴染のもち蔵から告白されたことをきっかけに相手を意識し始め、いつものほんわかした日常から離れ、非日常的な感覚に戸惑うことになります。 いずれの作品もテレビシリーズでは日常、劇場版では非日常を経ての成長という役割分担が取られていることが伺えます。 この点を前提にして『きみの色』を見ると『映画けいおん!』や『映画たまこラブストーリー』と同じように、『きみの色』も日常から非日常へはみ出していく中で成長する少年少女を描くという、これまでの劇場版のスタンスを踏襲した作品であるということが言えそうです。
映画『きみの色』をレビュー:山田尚子監督の自己投影としてのシスター日吉子
上記は構造的な話ですが、もう少し具体的なレベルでも『きみの色』には『けいおん!』と『たまこまーけっと』の影響が見られます。まず“バンドもの”というコンセプトを聞いた時点で『けいおん!』を連想した人は多いはずです。確かに音楽を通して仲を深めていくのは『けいおん!』を思わせるところがありますが、ここで注目したいのは“シスター日吉子”の存在です。 シスター日吉子は何かと主人公たちの手助けをしてくれる重要なキャラとして登場します。物語の終盤ではライブシーンの前に「私も実は昔バンドをやっていた」というカミングアウトがあり、トツ子たちにシンパシーを寄せていた理由が明かされますが、これは完全に『けいおん!』のさわ子先生ですよね。 軽音楽部の顧問であるさわ子先生も昔は「DEATHDEVIL」というメタル系ハードロックバンドを組んでいた過去があり、何かと放課後ティータイムのメンバーを助けてくれる存在でした。年長者の元バンドマンが、陰ながら主人公を支えるという『きみの色』に見られる表現は『けいおん!』から引き継がれた要素と言えるでしょう。 また山田尚子監督自身も昔バンドマンだった過去があることで知られており、さわ子先生やシスター日吉子のポジションには監督自身が投影されている可能性もありそうです。元バンドマンの年長者として後輩を優しく見守るさわ子先生やシスター日吉子の視点は、同じく元バンドマンで年長者である監督自身のキャラクターを見守る優しい眼差しと重なるように思えてなりません。
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