映画『きみの色』をレビュー 山田尚子×吉田玲子の最強タッグが放つ、いい子のための処方箋! 反抗できないけど、自立したい…若者の心にギリギリまで迫る傑作が誕生!
映画『きみの色』をレビュー:反抗期は無くても、自立したい気持ちはある…という超リアルな心理描写
先ほど紹介した『いい子症候群の若者たち』の中では、自分の意見を言わない今の若者について、意見を表明しないことで周りの大人がなんでもしてくれるから、何もしないことでむしろ得をしているという趣旨のことが“究極のしてもらい上手”というやや皮肉っぽい言葉と共に紹介されています。しかし、この点に関しては、少々若者の心を大雑把にとらえているのではないかと筆者は思います。 確かに自己主張しないことで、何らかの得をしているのは事実でしょう。ですが、それは意見が言えない状態の一面を損得勘定の視点のみで切り取った考えであって、実際はもっと複雑なはずです。きみやルイのように、相手のことをおもんばかり過ぎて、気遣いをし過ぎてしまい、口を閉ざしてしまう…。優し過ぎるがゆえに自分の意見が表明できないという側面もあるのではないでしょうか。 初めてみんなで合宿をするシーンでは、各々が勇気を振り絞って家族に電話をかけ「今日はみんなで泊まる」という旨を伝えるのですが、単に仲間と外泊するだけのことでも、それを伝える時に酷く緊張しており、彼らが日ごろからどれほど大人に気を使っているのかが伝わってきます。いい子の生きづらさが、リアルに表現されていたように思います。 こうした現代のいい子の心の機微を丹念に拾っているのが、本作の極めて優れた点だと筆者は考えます。気遣いのあまり本音を隠し続けてきた彼らが、音楽を通して同じような悩みを抱えた仲間と出会い、時には一緒に校則を破り、時には親と離れて合宿をしたりしながら、ルールを越えたところ(非日常)で絆を深めていきます。 ちょっとしたいけないことの共有が友情を育むという表現が見られた後、さらに音楽という共通目的によって気持ちを共有し、第2の家族的な居場所ができたことで、安心して親や家族と向き合えるようになっていきます。そして反抗という形ではなく、話し合いや音楽に乗せて自分の本心を表明し、自立へ向けて成長していきます。 反抗心は無くても自立心はあること、仲間という第2の家族を作ることで実の家族とも安心して向き合えるようになること、優しくて反抗できなくても自立できることを教えてくれる、生きづらさを抱えたいい子たちにとっての処方箋のような作品だと感じました。 “反抗期”を迎えたことが無い人でも、いわば“自立期”は間違いなくあるのだと実感させてくれる物語であると言うこともできそうです。
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