2020年上場企業の不適切な会計・経理は開示58社、総数60件と高水準の開示が続く
◇内容別 「粉飾」と「誤り」が最多の24件 内容別では、最多は「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」が24件(構成比40.0%)、「誤り」も24件(構成比40.0%)と同数だった。 第一商品(株)は、長年にわたり歴代の社長らが回収不能となっていた貸付金の回収偽装や貸倒引当金戻入益の過大計上、広告宣伝費の架空計上などの不適切会計を行っていた。7月11日、東証は第一商品に対しジャスダック特設注意市場銘柄への指定と2000万円の上場違約金を徴求した。 また、子会社・関係会社の役員、従業員の着服横領は12件(同20.0%)だった。「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」など、個人の不祥事にも監査法人は厳格な監査を貫いている。
◇発生当事者別 「子会社・関係会社」が23社でトップ 発生当事者別では、最多は「子会社・関係会社」は23社(構成比39.7%)で、子会社による売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立つ。 次いで「会社」の22社(同37.9%)だった。会計処理手続の誤りや事業部門での売上の前倒し計上などのケースがあった。 「子会社・関係会社」と「会社」を合わせると45社で、全体の約8割(同77.6%)を占めた。
◇市場別 東証1部が33社でトップ 市場別では、「東証1部」が33社(構成比56.9%)で最も多かった。次いで、「ジャスダック」が10社(同17.2%)、「東証2部」が9社(同15.5%)と続く。 2013年までは新興市場が目立ったが、2015年から国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立つ。
◇産業別 最多は製造業の23社 産業別では、「製造業」の23社(構成比39.7%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。 卸売業では、連結キャッシュ・フローの記載に誤りや子会社土地の売却で時価評価差額が適正に取り崩されなどの「誤り」が目立った。 2020年の不適切会計の開示は58社、案件数60件で、高水準が続く。(株)ジャパンディスプレイは2020年4月、不適切な会計処理に関する第三者委員会の調査報告書および過年度の決算短信の訂正を開示した。経理責任者の指示で過大在庫の計上、費用の資産化、費用計上の先送りなどの不適切な会計処理が行われていた。また、常務執行役員などの指示により収益認識の要件を満たさない売上計上等の不適切な会計が行われていた。この不適切処理の一部は2014年3月の新規上場前から行われていた。 このため、東証は市場に対する株主および投資者の信頼を毀損したとして7月10日、ジャパンディスプレイに対し改善報告書と上場違約金6240万円を徴求。さらに、不適切会計の開示による株価下落で損害を受けたとして大株主から訴訟も起こされている。 監査法人は緊急事態宣言以降、リモートによる監査が加速している。だが、リモート監査は必要に迫られたものだが、安易な業務のリモート化は不正の機会を増やす懸念もある。コロナ禍で業種によっては経営環境が一段と悪化している企業もあり、2021年3月期は特に不適切会計に気を配る必要があるとの声も聞かれ始めている。 経済のグローバル化で、海外子会社との取引に伴う不適切会計も増加した。また、現場や状況を無視した売上目標の達成へのプレッシャーで、不正会計に走る担当者も後を絶たない。 コーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識改善が掛け声倒れに終わらないために、上場、未上場を問わず不適切会計を防ぐ風通しの良い組織づくりが求められている。