Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

ヨシダナギが語る、私財1000万円を投じさせたドラァグクイーンたちの魅力 「期待に応えるよりも、やりたいことを」

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
リアルサウンド

フォトグラファーとしては異例の動画特典をつけた理由

■フォトグラファーとしては異例の動画特典 ――今回は、写真集に動画が特典として付いていますね。これはなぜでしょう。 ヨシダ:自分がTBSテレビの『クレイジージャーニー』に少数民族の方々と出演して思ったのが、写真だけを見るよりも、動画があってモデルのバックグラウンドをわかったうえで改めて写真を見たほうが、人間という存在の重さが感じられて、対象に対してより知ろう、より愛おしいと思うような気がしたんですね。少数民族を撮影している時から、「立ち姿が美しい人にはドラマがある」という考えを持っているので、ドラァグクイーンからすごく有意義な話が聞ける直感があった。そして、その話を知れば、励まされる人や生き方のヒントを見出す人がきっといる。フォトグラファーとしては禁じ手かもしれませんが、私にとっては、なによりも被写体の魅力を伝えるというのが第一。だから、動画をつけようと思ったんです。 ――動画インタビューでは、どんなことに気を配っていましたか? ヨシダ:嘘をつかず、全員に対して同じことを同じように聞くことを心がけました。相手が誰だからといって、特別視をせず、フラットな目線で話を聞くことを徹底したんです。「ドラァグクイーンってなあに?」とか「どうしてなったの?」とか、すごく初歩的な質問をしたので、ドラァグクイーンたちは今までうんざりするくらい聞かれてきたことなんじゃないかと不安でしたが、むしろ「こんなことまで聞いてくれるの!?」「上っ面じゃなくて、自分のパーソナルな部分を聞いてくれたこと、目を向けてもらえたことがうれしかった」という反応が多かった。今回は少数民族と過ごしたような長い時間を彼女たちと過ごせなかったので不安だったのですが、私がどうしてドラァグクイーンを撮りたいと思ったのかが彼女たちに伝わったのかなと感じました。 ――実際にインタビューしてみてどうでしたか? ヨシダ:いろいろなドラァグクイーンがいました。ニューヨークに関してはやっぱり移民の方も多いので、12歳から故郷のコロンビアを飛び出して、南米を転々と旅して、今ようやく憧れのニューヨークに来て数年目みたいな方もいた。パリはドラァグクイーンだけで生計を立てる人は少なくて、たまたまショーを見て「これなら私もできそう!」とドラァグクイーンを始めた……みたいなパターンも多い。でも、そのなかでも、もともとアフリカに住んでいてパリに渡り、今戦っている、と話すクイーンもいました。  なぜドラァグクイーンをやっているのかという問いに対しては、自己表現だったり社会的なジェンダーに対しての反骨精神だったり、美の追求だったりとさまざまな理由があります。なかには、女性の強さや美しさをすごく評価していて、女性性に対しての賛美をドラァグクイーンで表現しているという方も。でも、「なりたい自分になりたい」という強い思いは、全員から感じることができました。 ■1000万円を越える私費を投じる覚悟はクイーンたちから ――今回の撮影は、ほとんどヨシダさんが私費を投じたそうですが……。 ヨシダ:最初は渡航費を2カ国で300万円くらいに抑えたいと思ってたのですが、ニューヨークだけですでに予算オーバー。しかも今回は動画撮影のチームがいて、その編集費もかかりますし、現地のロケーション代も予想以上に高かった。「もう撮影を諦めて帰る」という選択肢が頭にちらつくまで、追いつめられたこともありました。そこで背中を押してくれたのが、ドラァグクイーンたち。  ひとりひとりが個性的で、インタビューの短い時間ながら、彼女たちが歩んできた道について教えてもらっていたら、すごく励まされて癒やされた。あのインタビューがなかったら、中途半端なところで撮影を切り上げたり、動画を少し短くして編集費を安く抑えようとしたりしてしまったかもしれません。「どうにでもなれ!」ではないですが、あんまり考えないようにしようとお金を使ってたら、気づいたら1000万円を超えちゃってました。 ――ドラァグクイーンたちのどんなところに励まされたのですか? ヨシダ:もともと少数民族ばかり追いかけていた自分のようなカメラマンが、ドラァグクイーンの世界を熟知している訳でもないのに、突然彼女たちを「かっこいい!」と思って飛び込んできたんだから、当人たちにはとくによく思われないんじゃないかという不安がありました。でも実際に彼女たちと接してみたら、私の心配なんてちっちゃなことなんだなってくらい、器というかすべてがでかい人たちだった。それに、少数民族以外を撮影することも、やっぱり自分のなかですごく不安だったんですね。周囲の人たちやファンの人を裏切るんじゃないかと、期待に応えられないことを心配していました。でも、ドラァグクイーンと共に過ごしているうちに、彼女たちの生きざまをインタビューで聞いているうちに「私は私でいいんだ」と思えるようになった。  今もみんなからの期待に応えたいという気持ちはあるけれど、なによりも私自身がやりたいこと、私がつくりたいものを発表することがまず大事だと感じるように変化したんです。なにより、彼女たちに対して、自分のベストの作品を世に出したいという思いが生まれました。 ――写真集ができてからの、彼女たちの反応は? ヨシダ:作品集ができたので、郵送するねって、私からSNSを通じて全員に連絡したのですが、まるで田舎のお母ちゃんからの手紙のような目がしらの熱くなるメッセージが返ってきました。少数民族の人々はインターネットを使っていないことが多いので、現地に直接行かないと感想が聞けないので、ドラァグクイーンから「あなたのセレクト、超いけてるんだけど」とか「作品のタイトルが私にすごくピッタリ!」みたいな喜びの声がすぐに返ってくるのは新鮮でした。  あるドラァグクイーンはテンション高く「はー、もう素敵! はー、もう素敵!」と連呼するボイスメッセージを送ってくれた。仕上がりを気に入ってなければ喜んでくれないと思うので、送った写真をすぐにSNSにあげてくれたりするのを見ると、気に入ってくれたのかなと感じて、私も「あー、よかった!」って。彼女たちが気に入って喜んでくれたんだったら、それ以上のものはありません。  今はコロナの影響で海外に行けませんが、ずっと撮影をしていなくて写真を撮りたいという気持ちが高まっている。この思いを維持して行けば、次の作品はさらに良くなるんじゃないかなと期待しています。

六原ちず

【関連記事】