LGBTQ政治参加で「新たな視点」 タイ抗議デモ
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【12月8日 AFP】悩める学生からドラァグクイーンへ、3時間かけて生まれ変わる──民主化を求めるタイの抗議デモで、ジェンダー間の平等を呼び掛ける軽口好きのMC(進行係)、「マサラ・ボールド(Masala Bold)」の素顔は、演劇を学ぶシラポップ・アットーヒ(Siraphob Attohi)さん(21)だ。 マサラ・ボールドは、首都バンコクで行われている学生主体の抗議デモの常連だ。その華やかな存在感とみだらなジョークは、プラユット・チャンオーチャー(Prayut Chan-O-Cha)首相の辞任や王室改革を求めるデモ指導者らの演説に、絶妙な間をもたらす。 私生活では男性として「ラプター」というあだ名で呼ばれているシラポップさんは、エンターテイナーであるだけではない。今回の抗議デモの目標は、ジェンダー間の平等というLGBTQ(性的少数者)コミュニティーの願いとも一致していると話す。 演劇を学んでいるシラポップさんは、「もし私たちがタイで本当の民主主義を手にすることができなければ、LGBTQコミュニティーの権利も存在し得ない」とAFPに語った。「だから、活動家として演劇のスキルを生かして人の役に立つことは、うれしく誇らしいことであると同時に自分の将来も懸かっている」 今年7月から始まった若者主体の抗議行動において、シラポップさんらLGBTQコミュニティーの著名人は非常に際立った役割を果たしている。 わずか数分のうちにお祭りムードから緊張状態へと一変する抗議デモで、目を引く衣装に身を包んだシラポップさんらは黒ずくめの参加者らと共に立ち、レインボーカラーの旗を大きく広げる。 デモが掲げている主な要求は王室改革、軍政時代に制定された憲法の改正、元陸軍司令官でクーデターによって政権を掌握したプラユット首相の退任だ。 また、王室への批判を禁じる不敬罪の廃止と、マハ・ワチラロンコン(Maha Vajiralongkorn)国王が不穏な政治の世界から「距離を置く」ことも含まれている。 著名なトランスジェンダーで、人気のリアリティー番組「ドラァグ・レース・タイ(Drag Race Thailand)」の優勝者でもあるエーンジェーレー・アナン(Angele Anang)さんは、こうした主だった目標の中には、同性間の結婚やジェンダー間の平等に至る道がはっきりと通っていると話す。 「私たちは同じ権利を持っていない」と訴えるエーンジェーレーさん。LGBTQコミュニティーの最大の目標は、タイにおける同性婚の合法化だという。「それが、不平等を是正する鍵です」 ■「色分けと固定観念」 多様で活気あるタイのLGBTQコミュニティーは、メディアや有名なバンコクの夜の街で目立ち、タイは寛容な国だという評判を高めてきた。 しかし、現実はバラ色の状況とは程遠く、トランスジェンダーに対する差別がまん延し、職探しの機会さえ逃すこともある。テレビのバラエティー番組や映画では、同性愛者に対する凝り固まった見方があふれている。 「私たちは色分けされ、固定観念で見られている──本当に受け入れられているとはいえない」。抗議デモに合わせて、LGBTQの権利を訴えるパレード「プライド(Pride)」の準備をしながらシラポップさんは言った。「私たちみたいな人々が存在していると認め、彼らの視点から私たちを分類しているにすぎない」 シラポップさんは緑色に肌を塗りながら、今回のマサラ・ボールドは、米ブロードウェイの大ヒットミュージカル『ウィキッド(Wicked)』の主役、エルファバ(Elphaba)になると語った。『オズの魔法使い(Wizard of Oz)』を魔女の側から再構成した物語だ。 エルファバを選んだのは当然、政治的な理由からだ──緑色の肌を持つエルファバは疎まれて育ち、強力な魔法使いに歯向かったことで自由の国オズから追放されるとシラポップさんは説明する。それは、強大な力を持つ君主を批判した民主派の活動家らが、保護を求めて欧州に亡命した「タイの状況と同じだ」という。 映像は11月7日撮影。(c)AFPBB News