「人間の役に立つ」はずが、害虫扱い! 憐れなセイヨウオオマルハナバチ
逃げ出したセイヨウオオマルハナバチが在来種を駆逐
しかし、本種は導入時より、外来種としてのリスクが生態学者の間で議論されていました。大陸で進化したセイヨウオオマルハナバチが日本列島で野生化した場合、日本の生態系に重大な影響を及ぼすのではないかと懸念されたのです。とくに、日本にも在来のマルハナバチ種が生息しており、セイヨウオオマルハナバチは、それら在来種を駆逐する恐れが高いと考えられました。 そして、その懸念は、かなり早い段階で現実のものとなりました。北海道でハウスから逃げ出したセイヨウオオマルハナバチが定着している、すなわち、野外で巣を作り、繁殖していることが1996年に初めて報告されたのです。そしてその分布は年々拡大を続け、日本在来のマルハナバチの栄養場所を奪うなどして、その生息域を圧迫するようになってしまったのです。 その後、国立環境研究所を中心とする農林水産省予算の研究プロジェクトにより在来種に悪影響を及ぼすという調査結果がまとめられ、2006年にセイヨウオオマルハナバチは環境省の外来生物法によって特定外来生物という規制対象種にリストされました。これにより、現在では、環境大臣の飼養許可を受けた上で、ハチが逃げ出さないように規定の網を張ったハウス内でしか本種は使用できなくなっています。農業現場の救世主は、いまや「牢獄」に閉じ込められた有害外来生物という烙印を押されたことになります……。
一方、輸入と使用の段階で許可制という規制がかけられたものの、すでに野生化したセイヨウオオマルハナバチ個体群はいまでも繁殖を続けており、その分布域は知床半島や大雪山など貴重な自然が残るエリアにまで拡大しつつあります。次の課題は、野生化したセイヨウオオマルハナバチの駆除となります。本来ならばポリネーターとして保護されるべき昆虫の駆除作業など、ほかの国でも例を見ません。 北海道庁は、2007年よりボランティアを募って、マルハナバチバスターズと命名し、全道的にセイヨウオオマルハナバチの網による捕獲活動を展開しています。毎年数万にのぼるセイヨウオオマルハナバチが捕獲され続けていますが、その捕獲数は減ることはなく、効果の見えない捕獲作業の連続にバスターズの皆さんのモチベーションも低下して来ており、とにかく効率的な防除手法の開発が求められています。 飼育および野生の巣の調査から、セイヨウオオマルハナバチは、その増殖率が在来種以上に高いため、網で捕獲してもほとんど間引き効果ぐらいしか期待できないことが考えられました。そもそも網を振って害虫退治ができるなら昔から農薬業界なんて不要のはずです。