タイ「海の民」 コロナ禍の観光客激減で一息
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【12月24日 AFP】新型コロナウイルスの影響で世界中が大混乱に陥っている一方で、タイの「海の民」と呼ばれる人々にとっては歓迎すべき状況が生じている。大勢の観光客が押し寄せる脅威から一時的に解放されているのだ。 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が始まって以来、サナン・チャンナム(Sanan Changnam)さん(42)とその身内にとっては、前よりも暮らしやすい状況になっている。食べるための魚が豊富に取れる上、人気の観光地プーケット(Phuket)島にある先祖代々の土地の不動産計画が停止したからだ。 タイではこの8か月間、外国人観光客の入国が制限されており、観光船は埠頭(ふとう)に停泊したままだ。そのため「海の民」チャオレー(Chao Lay)の人々が漁を営みやすくなっている。 サナンさんは、AFPに「以前のように深くまで潜らないので、危険は少なくなっています」と語る。 サナンさんの先祖、300年近く前にインドネシアから来たかつての流浪の民は、プーケット島南部の海浜地区ラワイ(Rawai)の岬に住み着いた。それから長い年月がたち、島はタイで最も人気の高い観光地の一つとなった。 2019年には900万人以上の観光客がプーケット島を訪れた。人出の急増は多大な影響をもたらし、漁業資源の減少や漁場の縮小、そして熱狂的な建設ブームを引き起こしていた。 さらに、住まいを追われる脅威が、ラワイに暮らすチャオレー1200人の上にのしかかっている。彼らの、海に面した数百メートルの細長い土地に、不動産開発業者らが目を付けているのだ。 観光業者らとの争いは不公平なものだ。チャオレーの人々の多くが読み書きができず、自分たちの名前で土地を登記できることを知らなかった。 多くの家族は現在、住んでいる土地の法的所有権を保有していないが、政府は彼らが投資家が狙いだすはるか以前からそこに住んでいることを証明する手助けをしようとしている。 政府は昔の空中写真とチャオレーの先祖の骨の分析を命じた。先祖は死後も波の音が聞こえるように浜辺に埋葬するのが伝統となっている。 ■再考の呼び掛け タイ・チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)の人類学者ナルモン・アルノタイ(Narumon Arunotai)氏は、政府が「パンデミックによって得られたこの機会に、チャオレーの人々の将来像について再考する必要がある」と指摘する。 「新型コロナの流行は、考え方を変える一つの機会だ。プーケットに観光客が大挙して押しかけることで、海の民にとっては破壊的な状況がもたらされている」と、ナルモン氏は続けた。 一つの選択肢は、当局が土地を購入し、チャオレーに恒久的に委譲することだ。 政府は最近、マングローブが自生する地域を隣接するチャオレーの村に付与し、当面の生活と漁を行う場として利用できるようにした。これは最初の一歩だが、永続的な解決策にはならない。 チャオレーには特異な才能と伝承があり、生きていく上で大きな助けとなっている。 2003年の研究によると、チャオレーの三つの分派集団のうちの一つ、モーケン(Moken)の子どもたちは、欧州の同年代に比べて海中での視力が1.5倍高いという。 さらに、周囲の環境を深く理解していることにより、チャオレーの人々の多くが、2004年に発生した壊滅的な津波の危険信号を察知して避難することができた。 チャオレーの大半が難を逃れただけでなく、多くの観光客を助けて安全な場所に避難させた。 「私たちは、これからもずっと海の子どもたちなのです」と、チャオレーのサナンさんのおじ、アリムさんはほほ笑む。 映像は9、10月に取材したもの。(c)AFPBB News