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「note」が美術館に法人プランを無償提供。その狙いをCXO深津貴之に聞く

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美術手帖

美術館とnoteをつなぐ  2014年4月にサービスを開始し、いまや月間アクティブユーザー(MAU)数6300万(2020年5月)、会員登録数は260万を誇る「note」。テキストや画像など、気軽に様々な表現ができるプラットフォームとして、メディアや多くの著名人も使うサービスへと成長してきた。 ​ そんなnoteが、8月に画期的な試みをスタートさせたことはご存知だろうか。noteには法人プランとして月額5万円の「note pro」があるが、これを 文化施設向けに無償提供し始めたのだ。対象となるのは、図書館、美術館、博物館、動物園、水族館、植物園、科学館。1団体につきひとつのnote proアカウントを無償で提供している。  この取り組みを始めた背景について、noteでCXO(Chief Experience Officer)を務める深津貴之はこう語る。  「noteはだれもが創作をはじめ、続けられるようにする、というのは当初からのミッションです。コロナ禍で美術館などの文化施設が大変だということは我々も認識しており、この取り組みを構想しました。情報発信の手段はこちらから提供したほうがスピードが早いのではないかと考えたのです。いままさに必要としている人たちに届けたいと」。  noteは今年に入ってからすでに学校法人や地方公共団体、スタートアップ企業に対しても無償提供を行っており、文化施設はその4例目だ。すでに複数の美術館から問い合わせがあるという。noteとしてはこのサービスを行うことで、美術館情報を既存の美術ファンではない層へもリーチさせることを狙う。  「美術館単独で情報を発信するのも重要ですが、それではスケールメリットが期待できない。全国の美術館がそれぞれサイトを開発・運用するにはそれなりの予算と人材が必要になるし、あまり現実的ではありません。だったら分業すればいいじゃないかと。美術館はコンテンツ面をしっかりつくり、情報流通はnoteに集約させる。note proはそれぞれの美術館サイトにつなぎこみが可能なので、note proを使いつつ、各サイトに情報をフィードとして流しこむこともできます」。 ​ 美術館には固有のウェブサイトがあり、このコロナ禍ではそれぞれが様々なオンラインコンテンツを発信しようとしてきた。しかしそうした努力も、ユーザーにアプローチできなければ水の泡となってしまう。  「ユーザーから見ても、それぞれの美術館サイトは面白いかもしれないけど、全部に異なるURLがあり、それらを回遊していくというのは難しいと思うんです。それよりは1ヶ所に情報がまとまっているほうが集客力も上がるし、結果的にコンテンツも磨かれていく気がします。街中にある『ラーメン横丁』みたいなものをイメージしていただくとわかりやすいかもしれませんね」。  しかし深津は美術館個々のサイトをなくすのではなく、あくまで相乗効果を狙いたいという。 「もしユーザーがある美術館のコンテンツをnoteで見て、さらに深堀りしたいのであればその美術館固有のサイトに飛べばいいんです。そうすればnoteも嬉しいし、美術館もハッピーになれる」。 日本の美術館は“がんばりすぎ”  日本の美術館は、独自でアプリを開発するほど先進的なものから、依然としてスマートフォン対応していないものまでウェブへの対応は様々だ。UX(User Experience)のプロフェッショナルである深津の目から、現在の日本の美術館のウェブサイトはどう見えているのだろうか?  「日本の美術館のサイトは個別に頑張りすぎているんです。1館1館がサイトやアプリを開発しても、大変なわりにクオリティは担保できていない」。  それぞれのサイトの「個性」がネガティブに働くこともあるという。  「ユーザーからすると、サイトメニューの位置がそれぞれ全部違う、というだけでもデメリットです。加えて、サイトがユーザー目線なのか専門家目線なのかという論点もあります。もし美術館サイトに専門家が1万人訪問するとしても、それは業界内で閉じてしまう出口のないもの。いっぽうで、一般のユーザーが1000万人訪問するサイトであれば実際の展覧会集客も増えるし、経済メリットもある。そうすれば展覧会予算も増えるかもしれない。サイト構築ではまず、マスに最適化したものをつくるべき=スケールメリットを考えるべきなのに、多くのケースではそうなっていません」。 noteという「街」にアートディストリクトを  では美術館がnoteに参加すると、note側にはどのようなメリットがあるのか。深津はnoteを「街」に例えて話す。  「noteはひとつの巨大な街なんです。だから今回の無償提供は、シンプルに考えると『街に美術館がやってきた』ということだと考えてください。写真の美術館も陶芸の美術館も嬉しいけど、まずは総合美術館をつくろうよと。大きな街(note)に美術館ができれば、それなりに多くの人が美術館に行くじゃないですか。noteも美術館もハッピーだし、美術館に行きたい人の需要も満たせる」。  「先程申し上げたスケールメリットという意味でも、完全に同じインターフェースのほうがUX的には価値がある。海外の大きな美術館も含めて、そうあるほうが幸せだと思います。情報発信や集客という観点では、みんなで手を組んでひとつの大きなメディア(共有知)をつくるほうがいいんじゃないかなと」。  noteの月間アクティブユーザー数は6300万であり、現実世界ではありえない人数が美術館情報へとアクセスする可能性が生まれる。とくに現実での「移動」が制限されているコロナ時代においては、この規模のプラットフォームに美術館が参入するメリットはこれまで以上に大きいだろう。  「美術館はいまのうちに、展覧会以外のユーザーとのリレーション構築をしておかないと、コロナが終わったあとのスタートダッシュが効かなくなる。水族館だって動物園だって飲食店だってそうです。どこまでしっかり顧客とつながりを持っていたかが、コロナ後には重要になってくるのではないでしょうか」。  深津はnoteと美術館の関係について、最終的なゴールを『日本美術館情報まとめ』のようなものをつくることだと話す。  「noteが現在準備を進めている『note media』機能を使えば、いろんな美術館の情報を横断的に紹介することができる。当然、noteには収蔵作品をアーカイブするような機能はないので、例えば過去の展覧会紹介や美術館の裏側を見せるなど、『お知らせ』や『ブログ』などの情報流通プラットフォームとして使ってもらえるといいですね。さらには美術メディアやアーティスト、批評など美術館以外のプレイヤーも入ることで、新しい化学変化が起こると、もっと面白いと思います。noteという街に、美術館を中心としたアートディストリクトができるイメージです」。  noteが起こしたこの波に、美術館界はどこまで乗っていけるのか。美術メディアも含め、この取り組みは美術の情報発信において大きな構造変化を起こすかも知れない。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

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