「最近の若者はすぐ辞める」と怒る前に知るべき、「仕事が合わない」と言い出す新人の真実
“辞める新入社員”が話題になる季節がやってきました。 「入社1週間目に、『なんかやりたい仕事と違う』と言ってきた後、連絡が途絶えて辞めた」 「ひと月の新入社員研修が終わって、5月からうちの部署に配属。『自分にこの仕事は合っていない』と言って、2週間目に辞表を出した」 「母親から『息子が思っていたような仕事ではないので、辞めてさせてください』と連絡があって、去っていった」 「昨年の秋、配属になった社員。『この職場では僕の個性がつぶされる』と辞めた。一年たって、これからだって時なのにがっかり」 【画像】入社前後のトラブル、何があった? ――など。これまでも、“仕事が合わない”と辞めてしまう若者があとを絶ちませんでした。 2000年代以降、辞める新入社員が問題視されるようになりました。とりわけ“ゆとり世代”が社会人になった10年頃からは、就職氷河期の直後で就職率が低いにもかかわらず離職率が増加。「若者が3年以内に仕事を辞める傾向が高まっている」という調査結果があちこちで取り上げられ、「このままいったら、3年以内で辞める大卒者の離職率は5割を超える」と危惧する声も出るほどに。 何かと批判の的にされた“ゆとり世代”が「自分に合わない」「やりがいを感じない」「好きなことができない」と辞めていくことに、「だからゆとり世代は……」と、あたかも彼らに問題があるかのような言説が増えていきました。 むろん、ゆとり世代に罪はありません。若者の「好きな仕事探し」は、ある意味、キャリア教育の成果です。
キャリア教育の功罪
キャリア教育という名のもと、学生たちは自己分析や他己分析をやらされ、「自分の強み探し」をやらされました。 たった20年、しかもそのうちの前半はあまり記憶にない人生を振り返って自分史を作ることや、他人まで借り出して「自分を分析する」ことが、キャリア意識を育てることにつながるか? これは、いささか疑問です。 しかし、キャリアカウンセラーなどは、「この仕事が好きだという強い思いが内定につながる」とアドバイスをしました。若い世代に影響力のある、いわゆる“成功者”たち(何を持って成功者と言うのか、いま一つ分からないのだが)も、「好きなことを仕事にしなさい!」「好きな仕事なら寝ないでも取り組める」とけしかけました。 実際、34歳までの若者を対象にした調査結果で、「適職探しへの再挑戦を希望している」若年者の総数は、1987年には425万人だったのが、2004年は558万人と、31.4%も増加。これは在学者を除く若年者全体の22.9%に相当します(2006年版「国民生活白書」)。 むろん、好きなことを仕事できたり、自分の強みを生かした方が楽しい。「好きな仕事を探しましょう!」と若者に教えるのは、正論かもしません。しかし、誰もが好きな仕事、やりたい仕事がみつけられるわけでもない。むしろ、「好きな仕事じゃないと、仕事は苦痛」というイメージだけが助長され、「好きな仕事が見つからないから、内定が取れない」と悩む学生も少なくありませんでした。 以前、筆者がある大学の講義で、「好きな仕事、やりたい仕事なんて、そんなにすぐ見つかるものじゃない。実際に仕事をする中で、出会うことの方が多い」という話をしたら、レポートに「すごく納得した」「安心した」「バイトでもそうだった」「やりたい仕事が見つからない私はダメな人間なんだと思ってたので、先生ありがとう」と書く学生の多さに驚いたほどです。 そもそも“好きな仕事探しシンドローム”が広がった要因の1つは、村上龍氏の『13歳のハローワーク』(2003年)が、全国8000校以上の小・中・高等学校で教材や参考図書として採用されたことの影響が大きいと、個人的には考えています。 当時、全国の小・中・高等学校で活発に進められていた「キャリア教育」で、514もの職種が紹介されているこの本は便利だったし、子どもたちに対して、「仕事=ワクワクするもの」と興味を抱かせる内容でした。これ自体はすばらしいことです。私自身、「子どもの時に読みたかった」と率直に思いました。 しかし、村上氏は本の冒頭で、「この世の中には2種類の人間・大人しかいないと思います。生き生きと充実感を得ながら仕事をやっている人と、そうではない人の2種類」と断言し、「好きなことを仕事にすればいい。だって嫌いなことだったら長続きしない」と説いている。「好きな仕事圧」です。 4月に公開された連合の調査「入社前後のトラブルに関する調査2022」でも、新卒入社をした企業を5年以内に退職した理由のトップは「仕事が自分に合わない」(40.1%)でした。 2位の「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」(31.0%)や、3位の「賃金の条件がよくなかった」(27.4%)を約10ポイント上回り、圧勝でした。 つまり、“好きな仕事探し=自分に合った仕事探しシンドローム”は、今も続いている。いや、正確には、根を下ろした。就職する=好きな仕事をするという方程式は、当たり前の価値観として定着したのです。 一方で、同調査では興味深い事実も確認されています。