なぜ今、このタイミングで、劇場版アニメ「はいからさんが通る」なのか?
少女漫画原作なのに冒険ものっぽい 男勝りな紅緒に憧れた
少年に戻ってしまったのか? 松田氏と井上氏の目はキラキラしている。少女たちのみならず、少年たちをも夢中にさせたアニメ「はいからさんが通る」にはどれほどの魅力があったのだろうか? 井上:子供の頃、テレビアニメは全部観ていました。「はいからさん」は少女漫画原作なのに、冒険ものっぽくもあり、伊集院少尉はもちろんカッコいい。でも主人公の紅緒がすごくおもしろいって印象が残っているんです。当時、歌も流行っていてよく歌っていたし。その記憶と思いが、ずっと今まで残っていて、アニメの仕事をやっていく中で、それが企画になって、「いよいよやるときが来たな」と。 松田:僕も同じですね。アニメは妹と一緒に観ていました。紅緒の男勝りなところも含めて、子供の目から見ても憧れる女の子でした。最初かもしれないですね。このタイプの女性がわりと好みになってしまったのは。 井上:日本にはいないタイプですよね。好みのタイプとまではいかないけれど、紅緒から与えられた影響は大きかったのは間違いないです。おもしろくて元気な女性は好きです。すごい主人公ですよね。それでいて完璧ではないところが、人間味もあって、余計に惹かれます。
昭和に描かれた大正時代の物語 若い人たちには受け入れられるのか
アニメ放送時、少年少女だった人たちにとっては懐かしく、映画でまた観られるのはうれしい。キャラクターやファッションは今っぽいテイストに仕上げているが、昭和に描かれた大正時代の物語。果たして若い世代に受け入れられるのだろうか? 井上:当時、男性中心の社会の中で、紅緒のあれだけはっちゃけた活躍は、大正時代はもちろん、描かれた昭和40年代でも珍しい。今と比べるとより男性社会だったし、そういう時代の流れが全部詰まっている作品なんです。今はもう一段階、女性が社会進出している中でも、紅緒の生き方に若い人たちが習うことはいっぱいあるんじゃないかな。40年前の作品ですけど根底に流れている「女性と社会」「男性と社会」の部分は、興味深く、楽しみにながら学べるところがあると個人的には思っています。 経済的にも思想的にも大正時代も今も激動の時代。長い明治のあとの大正、長い昭和のあとの平成(続くかもしれないけど)、似てるんじゃないかなと思います。 松田:文化的な面で見ると明治から大正に移る時点では、着物から袴へ、草履からブーツへと、新しいものがいろいろ出てきた時代。今、平成は過去のものが見直されている一方で、新しいものが生まれている時代だと思います。今、和服が秘かなブームですよね。デニム地や新しい素材の和服など、手軽に着られる着物もあります。新しいものと古き良きものの繰り返しのサイクルの中で、今と大正はやっぱりどこか似ているのじゃないかと思います。 女子大生の卒業式の人気はあいかわらず「はいからスタイル」。海老茶の袴に編み上げブーツ。紅緒役の早見さんも舞台あいさつのときに言っていましたが、「袴姿には草履じゃなくて、ブーツでしょ」って感じですね。女の子にとっては一大イベント。和服というスタイルが若い女性の間で新鮮に映っているのではないでしょうか。