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人生をリセット、地球一周して得られるものとは?

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Wedge

憧れの世界一周の現実

 さらに話を聞くと、K君にとっての悲劇は漫然と過ごしてしまった過去の3年間だけでなく現在進行形の世界一周旅行であった。ワクワクドキドキの冒険旅行を夢想していたが現実の海外一人旅はK君には過酷で惨めな毎日のようだ。  K君の断片的な述懐を整理すると、まったく英語もしゃべれず現地人や外国人旅行者との会話を避けて黙々と孤独な貧乏旅行。たまに邦人に出会っても気後れして臆してしまい却って孤独感を深めてしまう。  比較的日本人には親しみやすい東アジア地域ですらK君にとっては無限孤独地獄であるなら、この先は中東、アフリカ、欧州、南北アメリカと更に難易度があがる。せっかく海外を歩いても外的世界との接点が希薄であれば“ひきこもり”と変わらない。  それでもK君が初志貫徹し世界一周を達成することを祈った。たとえ過酷で惨めな試練の連続であっても地球を一周したという実体験こそがK君が人生のネクスト・ステージに進むために不可欠なのだと思った。

キャリアを捨てて世界一周

 バラナシはガンジス河に面するヒンズー教の一大聖地だ。有象無象の巡礼者で溢れかえっておりインド的混沌世界の縮図だ。安宿で夕食時に一緒になったのがY君28歳だった。  Y君は仕事を辞めて3カ月前に日本を出発して世界一周旅行の途上であった。Y君も前述のK君同様に内向的でボソボソと話す。色白で痩せた体格。  Y君は少年の頃から料理人に憧れて、高校に進学せずに調理専門学校に入った。18歳からホテルやレストランで修行を積んで料理の技を磨いてきた。そして10年、一人前の料理人となった。  しかし毎日同じことの繰り返しに疑問を感じて“人生をやり直す”ために貯金を下ろして世界一周の旅に出たという。具体的に何か嫌なことがあったのか聞いたが首を振った。料理を作ることそのものが苦痛になったというのだ。Y君がどうして人生をやり直したいのかどうにも腑に落ちなかった。

 海外放浪をしていると欧米の料理人のバックパッカーに頻繁に遭遇する。リゾートホテルはシーズンオフにはレストランを閉めるので、シーズンオフに旅行するという料理人が多い。また旅行先でエキゾチックな料理や未知の食材を見つけて自分のレパートリーを広げるという実益もあるようだ。  そんな外国の料理人のエピソードをY君に披露した。そして世界一周旅行で料理に関する見聞を広めて帰国してからの仕事に役立てたらどうかと水を向けたがY君は「もう料理人の仕事には戻りたくない」と頑なに否定した。  せっかく15年という時間をかけて築いたキャリアを捨ててまで何をやりたいのだろうか。悲愴な覚悟の世界一周の後に何が見えてくるのだろうか。そもそもY君は傍目から見ても一人旅を楽しんでいるようには思えなかった。艱難辛苦の苦行に耐えているようだった。  世界一周旅行と聞くと日焼けした若者が様々な困難に遭遇しながらも逞しく愉快に地球を歩くイメージが一般的であろう。しかしK君やY君のように人生をリセットするために必死でもがきながら歩いている人間も少なからずいるのだ。  どんなことがあってもY君には料理人というバックボーンがあることが救いに思えた。

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