【第2回】朝ドラ『虎に翼』考察。寅子を取り巻く優しい男たち
寅子を支える法曹界の人びと
寅子の恩師・穂高(小林薫)は、法科大学に女子部を設立し、寅子たち女性が法曹界に進出するための道を作った人物だ。けれども最高裁判事退任祝賀会の席で「私は大岩に落ちた雨だれの一滴に過ぎなかった」と挨拶。寅子はその言葉に怒り、花束を渡す役目を放棄して立ち去る。ハレの場で寅子がこんな振る舞いをすることができたのは、穂高に対して親愛の情があったればこそだろう。法曹の道を歩む寅子にとって、もう一人の親のような存在なのだと思う。 裁判官、のちに最高裁の人事課長となる桂場(松山ケンイチ)は、常に寅子に対して厳しい態度をとるけれども、やがてその仕事ぶりを高く評価することとなる。秘書部長のライアンこと頼安(沢村一樹)の胡散臭さは、法曹界に再度足を踏み入れた寅子が自分らしさを取り戻していくのに必要だった。寅子の家庭局・裁判官時代、局長である多岐川(滝藤賢一)が寅子に山ほど仕事を与えたことによって、彼女は活躍の幅を広げていく。 他にも、出てくるたびに嬉しくなってしまう真っ直ぐな男・轟(戸塚純貴)、どうにも憎めない兄・直道(上川周作)ら、寅子を取り巻く男性たちは、それぞれに魅力的だ。
寅子が「お父さん」になってしまう展開
寅子は、女性だからという理由で道を閉ざされたり、不遇な目に遭ったりという状況に目をつむらない。一方で、女性だからともてはやされることにも敏感だ。最高裁長官(矢島健一)とともにラジオに出演した際、「女性本来の特性をいかんなく発揮できる。家庭裁判所は女性裁判官にふさわしい場所といえるでしょう」という長官の言葉に「適性は個々の特性で決められるべきで、男女は関係ないのではないでしょうか」と指摘。「真の女性の社会進出とは、女性用の特別枠があてがわれることではなく、男女平等に同じ機会を与えられることだと思います」と続ける。 けれど、そうやって仕事に没頭していく「立派な」寅子は、知らずしらずのうちに猪爪家の人々と溝を作っていってしまう。家事と育児は兄嫁の花江(森田望智)に任せっきり。娘の優未(竹澤咲子)をはじめ、猪爪家の子どもたちは寅子の前では「いい子」として振る舞う。その姿はまるで家庭を顧みないお父さんだ。 「こっちは家族のために毎日休まず必死で働いてるのに」 「そういう態度よ。そんなふうに、家族に目を向けられないくらいまで頑張ってくれなんて私頼んでない」 寅子と花江の言い争いは、そのままそっくり夫婦喧嘩に置き換えられる。これまで女性が進んだことのない道を開拓した寅子はその先で、それまで男性がぶち当たってきた問題を体験することになった。