スキマスイッチの新曲「あけたら」に吐露された苦しみ、そして浮き彫りになった2人のつながり
本日リリースされたセレクションアルバム『スキマノハナタバ ~Smile Song Selection~』は、〈スキマスイッチの音楽で笑顔と元気を〉をテーマに、「全力少年 Remastered」をはじめとする様々な楽曲をセレクトした企画アルバム。今回のインタビューにおいて聞きたかったのは、本作に収録された新曲「あけたら」についてである。
自粛期間中、大橋卓弥が個人的な思いを綴った曲を、常田真太郎が真正面から受け止めることで完成したこの曲は、タイトルからもわかるように、世界が直面しているこの緊急事態を受けて書かれたものだ。しかし、そこで唄われているのは誰かを勇気づける強い言葉でもなければ確かな希望でもない。じゃあこれは何のために書かれた歌なのか――。今回の個別インタビューで、大橋と常田の2人が、お互いの存在を必要としているのがわかる関係であることを改めて思い知ることになった。スキマスイッチの音楽は2人のコントラストで生まれるものであることを。
大橋卓弥 Interview
――思ってたより元気そうで。 「まぁ、元気ですよ」 ――この自粛期間、僕が担当してるアーティストの中で、メンタルが心配な人とか健康が心配な人とかいろいろいたんですけど、大橋くんのことは体型が変わってしまってるんじゃないかと心配してました(笑)。 「太るんじゃないかってこと? このとおり、変わってないですよ(笑)。むしろメンタルを心配してもらいたかったですね」 ――やっぱり気持ちが腐りましたか。 「腐りました。僕、震災の時もそうでしたけど、こういう時って曲を書く気にならないし、かといって他にやることもないし、家にジッといるしかない状態で」 ――なんで曲が書けないの? 「なんでって……気が乗らないからですよ」 ――「ライヴがないぶん曲を書きまくってます」っていうミュージシャンもいましたけど。 「僕はそういう気にはなれなかったです。毎日テレビをつけると『今日の感染者数は何人でした』とか『不要不急の用事以外は出るな』とか、あと九州の大雨の災害もそうですけど、こんな時に曲を書く気になんてなれないというか。あくまでも僕の場合はだけど、こんな時に曲を書こうとするのは……自分勝手な行為のように思ってしまうというか」 ――そうかな? 「だってコロナとか災害で苦しんでる人たちは、それどころじゃないでしょ? それこそ震災の時に僕らは――」 ――「奏(かなで)」の動画を公開して。 「それっていまだに正解だったのかわからないと僕は思ってて。曲を書くってことも、それを誰かに届けようとしてるわけじゃないですか。今そんなことしてる場合なのか?って。そういう意味で曲を書く気になれなかったんです」 ――でも「奏(かなで)」だって「音楽が何かの力になれば」っていう気持ちでやったんでしょ? 「でも本音を言うと、僕自身はこんな大変な時に歌を唄ったり曲を書く気になれないんですよ。音楽ってやっぱり娯楽だから、その娯楽自体が崩壊したり後回しになってる状況で、それどころじゃないっていうか」 ――でもそうやって悶々としてたら、メンタルがやられていくじゃないですか。 「やられていいんですよ。やられていいっていうのは言い過ぎだけど、コロナとか災害で辛い思いをしてる人たちがいっぱいいる中で、僕だけのほほんと生きてるのもおかしいし」 ――痛みをわかち合いたいってこと? 「だから勝手なエゴですよね。だって遠い国の災害とか貧困とかで苦しんでる人のことまではそう思えないし。日本で起こった災害だったり、身近な人たちに降りかかった不幸に対してだけそう思うってことは、完全にエゴだと思うから」 ――でも今回、新曲を書いてるじゃないですか。これは? 「だから無理やり書いたんです。気が乗らないのに」 ――なんで書いたの? 「自分のために書きました。だからこれも完全に僕のエゴです。自分がアーティストとして生きてて、こういうことが世の中で起きました、その時に自分がどういう曲を書いたのかっていうのを残しておきたかった」 ――でも書く気がしなかったわけでしょ? 「書く気がしないけど無理やり書いたんです。今しか書けない曲があるはずだから、と思って。大変でしたけど」 ――ちなみに相方はどんな感じだったんですか? 「シンタくん(常田真太郎)ですか? 彼はいつもどおりに見えましたよ。全然コロナとか自粛とか、そういうのでメンタルを食らってない感じに」 ――大橋くんみたいにならないよう対処してたんじゃないかと。 「それがすごいと思う。僕は真っ向から受け止めて食らっちゃうほうだから」 ――曲が書けない、唄えない、何もする気がない状態っていろんな人に迷惑をかけるかもしれないじゃないですか。だったらどんな時でもメンタル保てるようにしてるのがシンタくんなのでは? 「そうかも。だからシンタくんからすると〈タクヤは何でそんなに食らってんの?〉って思ってるはずで」 ――だったらシンタくんに書いてもらえればよかったのに、無理やり自分で書いたと。 「そう。だから大変で。僕の場合、ほとんどの曲はメロディから書くんですけど、今回は詞から書いたんですよ」 ――どうして? 「とりあえず今思ってることをそのまま書こうと思って。それ以外に曲を書くっていうアプローチが見つからなくて。それで、曲のタイトルにもなったけど、〈あけたら〉っていう言葉が出てきて。この自粛期間が明けてほしい、過ぎ去ってほしいっていう気持ちしかなかったんです。とにかくその〈あけたら〉っていう気持ちだけで書きました」 ――今まで書いてきた曲のどれとも違いますか。 「違いますね。近いものがあるとすれば……ソロの作品かな。『Drunk Monkeys』の時に近い」 ――なるほど。それだけ個人的な歌だと。 「だからエゴですよ。ソロはやっぱり、スキマスイッチとしての僕じゃなくて、自分が思ったことをとにかく書いたものだったじゃないですか。それとすごく近い感じ」 ――というかそういう曲以外は書けなかった。 「そうですね。スキマスイッチ名義なのに、ソロの感覚に近いものしか書けなくて。だからこの曲って、僕のソロをシンタくんにプロデュースしてもらったような感じなんですよ」