エンツォの魂は死なず! フェラーリは新工場「eビルディング」で一体何をつくるのか?
エンジンのないフェラーリに魅力はあるのか?
それにしても、フェラーリはなぜEVを発売しようとしているのか? そもそも、フェラーリといえばエグゾースト・サウンドを始めとするエンジンの官能性を売り物としてきたスポーツカーメーカーである。そんな、ブランドの本質ともいうべきエンジンを失ったフェラーリ製EVを欲しいという顧客が、本当にいるのだろうか? 「サウンドが内燃エンジンの重要な要素であることは間違いありません」とヴィーニャCEO。「いっぽうで『私はフェラーリがEVをラインナップするまで、フェラーリを買うことはないでしょう』とおっしゃるお客さまもいらっしゃいます。つまり、お客さまはひとつの理由だけでフェラーリを買うわけではありません。様々な要素をバランスよく備えているからこそ、フェラーリを買って下さるのです。したがって、私たちは正しいバランスのEVを作らなくてはならないのです」 フェラーリがEVという新たな市場を開拓しようとしている背景には、ヴィーニャCEOの強い信念も関係しているようだった。 「私はハイテク産業からフェラーリにやってきました。そのハイテク産業では、自分たちの将来に自信を持ちすぎていたために、倒産の危機に瀕している企業が少なくありません。これを防ぐには、自分たちが行なっていることが正しいかどうかを定期的に再確認する必要があります」 いま、スポーツ系ラグジュアリーブランドのなかで、フェラーリはほぼひとり勝ちの状況にある。それでもなお、ヴィーニャCEOは自分たちの足下を見つめ直し、さらなる高みを目指して走り続けようとしている。「私たちの創業者であるエンツォ・フェラーリは、こう考えていました。『もしもフェラーリより速く走るクルマがあったら、フェラーリはそれよりも速く走るクルマを作らなければいけない』 これこそ、私たちのDNAなのです」 フェラーリは、eビルディングで純エンジン車やハイブリッド車を量産する準備を6月中にも開始し、2025年の第1四半期には初の市販車をラインオフ。続いて、フェラーリ初のEVを2025年末に発表したあと、2026年中にその納車を始める見通しだ。
文= 大谷達也 写真= Ferrari N.V.