エンツォの魂は死なず! フェラーリは新工場「eビルディング」で一体何をつくるのか?
イタリア・マラネロのフェラーリ本社に新工場「eビルディング」が完成した。e=EVと思ったら大間違い!? ここでは一体なにがつくられるのか。モータージャーナリストの大谷達也がリポートする。 【写真】フェラーリはこうしてつくられる! 最新の生産工場がスゴイ(全21枚)
フェラーリの新ファクトリー「eビルディング」が完成
去る6月21日、フェラーリは新しい生産設備「eビルディング」の落成式を盛大に実施した。 なにしろ、式典はセルジョ・マッタレッラ・イタリア共和国大統領を主賓に迎えるという格式の高さ。さらにはジョン・エルカン会長、ピエロ・フェラーリ副会長、ベネデット・ヴィーニャCEOはもちろんのこと、従業員の一部も招いて華々しく執り行われたのである。 ところで、この時期に「eビルディング」という名の建物を作れば、電気自動車(EV)のための生産設備と受けとめられても不思議ではなかろう。事実、2025年末に発表されるフェラーリ初のEVはこのeビルディングから生み出されるのだが、それだけでなく、ハイブリッドモデルや“純エンジン車”もあわせてこのeビルディングで生産されるという。 さらには、既存の生産ラインも閉鎖することなく引き続き稼働させるとヴィーニャCEOは言明した。となれば、生産規模の拡大がeビルディングの主要な目的と思われても仕方ないが、厳密にはそうではなく、「売り上げ高の質を改善すること」が優先課題であるとの説明があった。
「eビルディング」の役割とは
では、「売り上げ高の質を改善する」とは、どういう意味なのか? そのヒントは、やはりヴィーニャCEOが語った次の言葉にある。「生産の柔軟性を高めてパーソナライゼーションをさらに充実させることが、eビルディングを建設した理由のひとつです」 パーソナライゼーションとは、顧客ひとりひとりの要望にあわせてクルマの仕様をきめ細やかに設定することを指す。いわばオプション装備の超高級版だが、フェラーリのようなラグジュアリーブランドでは「人と違うクルマに乗っていること」が大切な意味を持つ。そこで、生産台数を増やしても1台ごとの希少性を損なわずに済むパーソナライゼーションは、益々その重要性を強めると同時に、自動車メーカーにとっては大きな収益源ともなっている。eビルディングの建設は、フェラーリのこうした戦略を象徴するものといえる。 さらにヴィーニャCEOは「柔軟な生産体制によりエンジニアやデザイナーに、より大きな自由度を与えること」や「開発の開始から製品を市場に送り出すまでの時間を短縮すること」もeビルディングの目的であると説明した。 もうひとつ重要なことは、前述したとおり、フェラーリ初のEVがこのeビルディングで生産される点にある。 それも、EVに必要な部品をサプライヤーから購入してただ組み立てるだけではなく、EVの開発からバッテリーパックの組み立て、電気モーターの試験などもeビルディング内部で行なうという。それだけ、フェラーリはEVの開発と生産に真剣に取り組むつもりなのだ。 「現在、フェラーリは4種類のプラットフォームを取り扱っています」とヴィーニャCEO。ここでいう4種類とは、V8ターボエンジンをフロントに搭載したモデル(ローマならびにローマ・スパイダー)、V6ターボエンジンをミドシップし、プラグインハイブリッドを組み合わせたモデル(296GTBおよびGTS)、V8ターボエンジンをミドシップし、プラグインハイブリッドを組み合わせたモデル(SF90ストラダーレおよびスパイダー)、12気筒自然吸気エンジンをフロントに積んだモデル(プロサングエならびに先ごろ発表された12チリンドリ)のことを指す。 「ここにEVが加わってプラットフォームは計5種類になるわけですから、複雑性が増すのは当然のことです」 ヴィーニャCEOはそう続けた。こうした多種多様なモデルを作り出すために必要となる柔軟な生産体制を実現していることもeビルディングの特徴といえる。