人間の軽率な行動で… 北海道でいま起きている「ヒグマ」の危機とは
野生動物に接近すること。後を追うこと、そしてエサを与えること。改正自然公園法が4月1日に施行され、こんな行動は最高30万円の罰金となった。背景にあるのは、北海道・知床でカメラマンや観光客がヒグマに繰り返し近づき、「人なれヒグマ」が増えたことだ。人間に慣れたヒグマは「早死に」する可能性が高いことも最近の研究で分かった。人間の軽率な行動が、動物の命を奪う。そう訴える現場を取材した。【BuzzFeed Japan / 相本啓太】
改正された理由
環境省によると、改正自然公園法では、国や都道府県が管理する国立・国定公園で、ヒグマなど野生動物への著しい接近やつきまとい、エサやりを規制する。これらの行為をした際、環境省職員らの中止指示に従わなければ、最大30万円の罰金が科される。法律が改正された理由について、同省はウェブページでこのように説明している。 ヒグマを近くで見たい、撮りたいという欲求から、一部の観光客やカメラマンによるヒグマに対する過度な接近やエサやり等が後を絶ちません。本来ヒグマは人を警戒しますが、これらの行為を繰り返すことにより、人を恐れない『人なれヒグマ』へと変わってしまいます。人なれヒグマは人間への危害を及ぼす恐れが高い場合、やむなく捕殺されます。 では、なぜ人なれヒグマは人間に危害を及ぼす恐れが高まるのだろうか。BuzzFeed Newsは、知床国立公園で野生動物の保護管理などを行う「知床財団」の石名坂豪・保護管理部長に話を聞いた。
人とヒグマの距離感
知床には年間約170万人が観光に訪れる。現在、知床のヒグマの推計生息数は400~500頭程度で、公園内の目撃数も年間1000件前後で推移。ふらっと訪れて野生のヒグマを見ることができるため、観光客も多い。しかし、財団職員らは以前から一部の人の不適切な行動を目撃し、人間とヒグマとの「距離感」を心配していた。 迫力ある写真を撮るため、カメラマンが車を降りて接近撮影(距離は10メートル以内の時も)、カメラマンが車を降りたことに安心感を抱き、観光客も降車して近くで見物、人々が車を降りたことによる道の渋滞ーー。 このような行為を発見した場合、職員らは車に戻るよう呼びかけたり、ヒグマを追い払ったりしてきた。その理由の一つは、ヒグマに「人間への忌避感情」を持たせるためだ。しかし、行動が変わらないヒグマも多かった。その理由を石名坂さんはこう説明する。 「ヒグマが嫌がる追い払い行為をする人間は我々など一部だけ。そのほかは写真を撮るだけの無害な人間です」「そうなれば、必然的にヒグマも人間や道路沿いを警戒対象としなくなる。嫌なことをしてくる我々だけを警戒するように学んでしまった」